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Columnコラム

スポーツナビ 杉浦大介 2008/06/24
松井秀喜とヤンキースに重要な意味を持つ7月
MLBニューヨーク通信vol.7
レッズのボルケスも松井を警戒

 6月中旬から破竹の7連勝を続けていたヤンキースの勢いを止めたのは、レッズのエディンソン・ボルケス投手だった。今季ナショナルリーグのサイ・ヤング賞候補筆頭と言われるボルケスは、6月20日(現地時間)のゲームでもヤンキース打線を7回2失点に封じ込め、その実力をニューヨークのファンに見せ付けた。
 全盛時のペドロ・マルティネスをほうふつとさせる快腕は、来月のオールスターでの先発登板も有力。そしてそんなボルケスに、「ヤンキースで印象に残った打者は?」と尋ねてみると、こちらの期待通り松井秀喜の名前も挙げてくれた。
「良いバッターだね。打席での安定感があるから崩し難い。遠くに打球を飛ばされないように逃げ腰の投球に終始したよ(笑)」

 日本人記者からの質問に気を遣った部分ももちろんあったのだろう。だが、24歳の陽気なラティーノは率直なタイプに見えた。何より実際のマッチアップで3打席中2度も快打を飛ばされていた(ライトライナー、ライト前ヒット)のだから、リップサービスばかりではなかったに違いない。
 開幕直後から高打率を保ってきた松井は、現時点でもまだアメリカンリーグの首位打者に手が届く位置にいる。このままいけば、オールスターゲームの大舞台でこのボルケスとの再対決が実現しても不思議はない。

前半戦のチームMVPは松井だ

「松井は今シーズンは常に3割台の打率をキープしてきた。ほかの選手たちが不調な時期から、唯一光を放っていたのが松井だったと言って良い。オールスターにも今季の彼ならふさわしいはずだよ」

『ESPN』ラジオのラリー・ハーデスティ氏がそう語ってくれたように、今でこそ当たりが戻ったヤンキース打線だが、しばらく前まではチーム全体がどん底の不振を囲っていた。
 ジョニー・デーモンやジェイソン・ジアンビーは好不調の波が大きかった。主砲アレックス・ロドリゲスやホルヘ・ポサダも故障がち。そんな中で、今季の3分の1が終えた時点でチームMVPを選ぶとするなら、それは最も安定した活躍を続けて来た松井だったはずだ。
 MLBを代表するスターたちを祝福するとともに、前半戦で活躍した選手をたたえるのがオールスターゲームの趣旨。だとすれば、今季の松井にはヤンキースを代表して球宴に出場する資格が十分あるように思える。ファン投票だろうと、選手間の投票だろうと、選出されて誰も文句は言わないはずだ。

両ひざの不安

 ただその一方で、レッズとの3連戦中にプレスルームで記者仲間たちと雑談していた際に、1人のアメリカ人記者がふとこんな言葉を漏らした。
「オールスター選出は大変な名誉なんだけど、その間に休養を取ってほしい気もしないではないけどなあ。ちょうどひざに治療を施したばかりだし、後半戦のヤンキースにとって松井のバットは重要になるだろうからね……」

 実際に、昨オフに手術を施した松井の右ひざと、巨人時代からの古傷だった左ひざは6月中旬になってついに悲鳴を上げ始めた。水抜きの治療を終え、わずか2試合を休んだだけで復帰はしたが、まだ完調ではないことは本人も認めている。
 これがオールスターが行なわれる7月15日までにどれだけ回復するかは、神のみぞ知るところ。ただもしも100パーセントに少しでも欠ける状態であるなら、オールスター期間中にはむしろたっぷりと英気を養ってほしい気もする。
 特に今季のヤンキースは、後半戦でこれまで以上に松井の打力を必要としそうだからだ。

球宴出場で弾みをつけるか

 近年恒例になった序盤の出遅れを乗り越え、現在のヤンキースはプレーオフが狙える位置まで浮上して来ている。ただ昨今の彼らの好調は、尋常でないほど容易な交流戦スケジュールの産物だった感も否めない。
 パドレスや、レッズ、パイレーツなどナ・リーグの下位球団とばかり次々と対戦し、辛口な地元紙は「MLB史上最もイージーな交流戦スケジュールの1つ」と揶揄(やゆ)した。レッドソックスがフィリーズ、カージナルス、ダイアモンドバックスとプレーオフ圏内のチームと続けざまに激突しているのとは対照的である。
 こんな偏った日程になんの文句も出ないアメリカ野球のおおらかさには感心するばかりだが、そんなヤンキースの幸運も7月以降までは続かない。オールスターを挟み、レッドソックス、レイズ、エンゼルスらハイレベルなア・リーグ列強との「真の戦い」が待っているのだ。

 その大事な時期を前にエース王建民が故障に倒れ、今後のヤンキースはエース不在の投手陣を打線がカバーしていく戦い方を余儀なくされるはずだ。現時点では好調でも、強敵を相手にしたときに波の激しいジアンビー、デーモン、ロドリゲスらから確実な貢献が望めるかどうかは微妙だ。そしてそんな状況でこそ、実績あるデレック・ジーター、献身的な松井らの存在が貴重になる。

「オールスターには選出されて、辞退するというのも悪いシナリオじゃないんじゃないか? 選ばれれば、出なくても“オールスター選手”という栄誉は手に出来るわけだしね」
 前述した記者仲間のそんなコメントはまあ冗談だろう。最良のシナリオはもちろん松井のコンディションが順調に向上し、地元開催のオールスター出場で弾みをつけ、さらに大事な後半戦での爆発へつなげていくこと。とにかく体調さえ万全ならば、今季のゴジラはどんな舞台でもヒットを重ねられそうだからだ。
 いずれにしても、3度目の球宴出場が実現するにせよしないにせよ、7月は松井とヤンキースの今季を左右するほど重要な意味を持つことになるだろう。
草野仁の日々是精仁 2008/06/02
松井秀喜選手の好調の理由は
ニューヨーク・ヤンキースは現在、アメリカンリーグ東地区で下位に低迷し、勝率5割を確保するのもやっとという感じです。

しかし、その中にあって独り松井秀喜選手は開幕から非常にコンスタントにヒットを打ち続け、大リーグ挑戦6年目の今年は4月、5月に関して言えば最高の成績を収めています。

好調の理由はいくつか挙げることができますが、第一に誰もが言うように結婚して家庭を持ったことが大きいと思います。これまでは外食が多かった訳ですが、奥様が松井選手のコンディションなど色々考えて料理を作ってくれるそうですし、何より料理の腕前が見事でとても美味しいとのこと、これは最高ですね。何を食べるか自分で思案する必要がなくなった訳でその上、同時に彼を支える会話がテーブルをはさんで交わされている様子が目に浮かびます。思えば結婚発表直前でしたが私とのインタビューの中で自分の好みのタイプは日本的で控え目な人、それでいて自分をきちんと支えてくれる人だと明言していました。結婚によって自分にとって全てが整い、家庭が明日へのエネルギーを再生産する母港となったのだと思います。

第二に大リーグ六年目の今年、バッターとしてある種の集大成的な答を出したいという意気込みも好調の理由になっていると思います。対話の中でバッターとして最も大切なことは打率3割を超えることですと彼は断言しました。この二ヶ月のバッティングを見ていると何よりもヒットを打って出塁すること、何処まで幅のある打撃ができるのか自分として答えを出したいと考えているように思えます。

第三に、どんな重圧でも撥ね退ける偉大な力を松井選手が持っていることも大きいと思います。キャンプ入りをする直前の彼のランニングはちょっと痛々しい感じがする程、手術した右ヒザを庇ってのものでした。正直これで開幕に間に合うのだろうかと私もとても不安を覚えたものです。元気な時を仮に100としたらその時は60位という感じでした。しかしそれからの日々、毎日毎日自分自身で入念にチェックしながら、本当に少しずつ少しずつコンディションを整えていき、遂に開幕戦は8番DHとスタメン入りを果たしたのでした。スタメン入りを知った時、この人は本当にとても慎重な努力家だなと感服しました。

いつも傍でサポートしているN.Yヤンキース広岡勲広報担当は「松井選手は熱くなりすぎてペースを上げ過ぎて自分を壊してしまうようなタイプの人間ではありません、自分の体についてはとても神経質な男です。彼を信頼しています」と語っていたことを思い出します。自分の体のことを良く知り、そして気を配った上で実に計画的に回復を図って、それをやり遂げた。そもそも今年は最悪の年。レギュラーすら保証されていないと言われていましたが、その逆境を見事に覆す大きな力を持っていたことを物語っていると思います。

第四に彼の人間性に惹かれる人達が多く、心からの励ましを送ってくれていたことも大きかったと思っています。キャンプ地のフロリダ・タンパでは男性も女性も大人も子供も列を作って松井選手にサインを求めていました。丁寧にサインをする彼にアメリカのファンから「アリガトウ マツイ」、「ガンバッテ マツイ」という日本語の声援が沢山飛んでいました。ある女性ファンは「一昨年左手首を骨折した時、松井選手はファンに向って『皆さんに心配や迷惑をかけて本当に申し訳ありません』と謝罪したのよ、こんな選手は今迄一人もいなかった。松井選手は本当に素晴しい。人間として最高だと思う」と話してくれました。

これ程までも人間性を評価されている日本人が他にいるだろうかと思うと、胸の中に熱いものがこみ上げてきたものです。そんなファンの声に今年こそ応えなければならないと彼の胸の中にはそんな思いもしっかり築かれているのだと思います。今年は今迄とは違う、そんな松井選手の今後を温かく見守りたいと思っています。