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Columnコラム

中日新聞 松井秀喜 2013/12/19
エキストライニングズ(20) 他競技に触れる大切さ
 アメリカンフットボールが圧倒的人気を誇る米国では、ラグビーを目にする機会があまりない。僕のようなラグビーファンには、ここでの冬は少し物足りない。

 実家の近くにラグビー場があったことや、テレビドラマの影響を受けたことで、子どものころからラグビーが好きだった。プロ入り後は社会人の神戸製鋼や大学の試合に足を運んだ。明大、伊勢丹などでプレーした元日本代表の吉田義人さんとは共通の知人がいたこともあり、何度か試合に呼んでいただいた。

 どのスポーツもその競技にしかない独特の美しさがある。僕にはラグビーの美しさが響いた。あれだけコンタクトがありながら、相手に対する敬意がプレーに表れる。ルールが悪用されないことを前提に成り立っているスポーツという印象を受けた。歴史がそうさせるのだろう。僕が野球で大切にしたいと思うものと重なる部分があった。

 野球を見る時は、競技者の目で観察する。ラグビー観戦は全く違う経験だった。いい選手はフィールドで光って見えた。どうして光るのか。自分が野球をしている時はどう見えているのか。ファンとして見たからこそいろいろ考えさせられた。

 見るだけでなく、複数の競技を経験することにも僕は賛成だ。小学生時代に柔道に親しんだ。礼を重んじるという意味では幼いときに経験して良かった。ただ最大の収穫は、野球が一番好きと気が付けたこと。他の競技に触れ、野球をどれほど好きかが分かった。

 米国では季節によって違う競技に取り組む部活動のシステムが一般的になっている。複数のスポーツを経験することで、一つへの思いを確認できるのではないだろうか。意味のあることと思う。

 野球以外に何ができたかと考えることがある。大好きなラグビーだが、あんなふうに走り続けることはできないだろう。他のスポーツを想像しても、野球以上に向いているものがあったとは思えない。野球に出会えて良かった。

  (元野球選手)
中日新聞 松井秀喜 2013/12/05
エキストライニングズ(19) 自分のゾーン変えず
 米大リーグでは来季からビデオ判定の適用範囲が広がる。明らかな間違いを正すのはいいことだと思う。これでいかなる場合も審判員が絶対なのは、ストライクとボールの判定だけになる。

 打者と投手の攻防はストライクゾーンの上に成り立つ。一試合平均三百球近くの判定だから、球審による違いは出るし、試合の中でも変わる。それでも僕は自分の中にあるストライクゾーンは変えなかった。

 例えば外れたと思った外角球がストライクになる。だが球審が取るからといってそこを意識しなかった。外にゾーンが広いメジャーの外角いっぱいは狙ってもそう打てない。だから失投が来る前提で、自分に届く範囲内で外角を意識した。2ストライク後も自分のゾーンは広げず、球をより長く見るという意識だけ変えた。それで厳しい球をカットできたりする。

 野球経験者なら「ボール球を振るな」と言われたことがあるだろう。「振るな」と言うのは簡単だが、必要なのは振らないための対策だ。

 僕の場合、鍵は二つだった。狙いを絞り、悪球に手を出す確率を低くする。そして打席での「目付け」を工夫する。目付けとは、端的に言うと投手の特徴をどうつかむか。リリース直後の球を見て、打者の手元でどの辺に来るかを予測する。軸となる速球の軌道で投手の手から捕手までラインを引き、その周辺の甘いところを待つような意識だ。

 ストレートという言葉にだまされる人が多いが「真っすぐ」はあり得ない。直球でなく速球。投手によって速球は沈んだり右や左に流れたり球筋が違う。例えばリリース時点で真ん中に来ると思っても内寄りに流れる軌道なら、真ん中を捉えるためには外寄りと思った球を打ちにいく。

 打席でいかにその感じをつかむか。あとはそこを基本に対応する。変化球は遅い分、対応の時間はある。ただ投手も工夫するし、コンマ何秒の世界。結論を言うと、ボール球を振らない打者はいない。永遠のテーマだと思う。 (元野球選手)