Matsui's Space 松井秀喜ファンサイト

Columnコラム

web Sportiva 2011/10/15
松井秀喜インタビュー「これだけ負けたのは野球人生ではじめて」
 松井秀喜がメジャー9年目のシーズンを終えた。新天地のアスレチックスは少年時代に憧れた球団でもあり、2010年のエンゼルスでの成績を上回る活躍が期待された。だが、結果は満足のいくものではなかった。「これじゃあ情けない」と本人がいうように、打率2割5分1厘、打点71、本塁打12は、ケガで長期離脱した06年と08年を除けばメジャーに移籍して最低の成績。限界説がささやかれるのも当然のことかもしれない。長いシーズンを終えた松井の率直な胸の内を聞いてみた。

―― 今シーズンは6月までがひどいスランプで、打率が2割を切る寸前まで落ち込んだこともありました。ところが7月、8月はV字回復して打率を5分あまりも上げて、1試合5安打も2度記録。まるでふたりの松井秀喜を見るようでしたがご自分ではどうとらえていますか。

「好不調の波はどんな年でもあるものでね。今年もそんなに特別なことだとは思っていません。よくあることの中の、数字が極端に悪いやつ、といったとらえ方ですね。だから、不調から抜け出そうとするときのアプローチも特に変えるようなことはなかったですよ。今までと同じようなやり方で抜け出そうとして、7、8月はいい結果が出たということ」

―― 試行錯誤だとか、年齢や状態に応じてスタイルを変えるといった考えはないのですか。

「僕は変化というのは、自分からは求めていません。求めていかなくても変わるところは変わっていくでしょうし。こっちのやり方がダメならあっちの方という考えはないんです」

 メジャーに行く日本人選手は、アジャスト(適応)という言葉をよく口にする。練習からライフスタイルまでメジャーのやり方に変えていかないと生き延びることができないというのが常識のようになっている。しかし、松井はあえて変化を求めない。好調の時も不調のときも自分のスタイルを変えることなく維持してきた。その是非はともかく、それが松井流ということなのだ。

―― 来年もメジャーでプレイすると、ちょうど10年。日本でも10年プレイしたので、日本とアメリカで同じだけプレイしたことになります。10年の節目とか、ひとつの区切りといったことは意識しますか。

「いや、全然。10年だからひと区切りという意識もないし、アメリカに来るとき、10年を目標にするということもなかった。あっ、そういえば、代理人(アーン・テレム)からは10年はプレイしてくれって言われたなあ。ガンバリマスとはいったけど、忘れていました。だいたい自分は長期展望をしないんです。10年単位で考えることなんてまずない。1年1年、1試合1試合、もっといえば1打席1打席が大事だと思っています。1打席ごとに結果が出る。その結果に対してどう対応していくかを考えて、次にいく。自分はこれだけやった。その結果がこう出た。だったら次はどうする。その積み重ね。10年だからどうするとか、これで節目だとかはないんです」

―― ヤンキース時代にインタビューさせてもらったとき、「選手としての究極の目標は、優勝争いをするチームの中で試合に出続けること」と答えていましたが、今はどうでしょう。今年は優勝争いには程遠かったし、今後もヤンキースのような常勝チームで先発して中軸を打つといった可能性も高いとはいえない。その中で選手としての目標をどのあたりに置いているのですか。

「うーん、目標? 目標はないですね。個人としての目標はありません。チームが勝つこと、チームの勝利を求めていくこと。あえていえばそれが目標かな。自分が今のチームに呼ばれたのも勝利のためだし、それにどう貢献するかということですね。だから、個人成績はもちろん、チームも優勝争いから遠い成績で終わったことは残念だし、十分な力になれず、情けない思いもあります」

 日米通算500本塁打。二塁打日本人最多。今シーズンもさまざまな記録を作った松井。だが、記録に対して松井はいつもそっけない対応しか見せてこなかった。これだけのキャリアの選手になると、個人記録がプレイのモチベーションになることも少なくないのに、松井はむしろ、話題に触れられるのさえ好まないように思える。松井は記録についてどう考えているのだろう。

―― 日米通算の二塁打が日本人最多になりました。本塁打も500本を超えた。ともに素晴らしい数字だと思うのですが、あまり関心は持っていないのでしょうか。

「個人記録というのは全く考えませんね。皆さんが話題にされるのは分かりますが、自分が関心を持つことはない。なぜかって? うーん、僕は野球の個人記録についてひとつの考えを持っているんです。野球の個人記録は、公平性というものがないように思うんです。球場や対戦相手など、さまざまな条件が違う中で、選手ひとりひとりが記録を争うというのは公平性にかけるような気がするし、あまり意味もないように思える。もともとチームが勝つためにやっているのに、個人の記録を比べたって仕方ないでしょう」

―― でも、数字が語る事実というものもあります。たとえば、二塁打はメジャーに来てかえって増えている。それは、変化を意識しないという話と矛盾するようですが、意図的にメジャーに対応した結果ではないですか。

「ハッハッハッ。意識して二塁打を狙いにいくなんてことはしていませんよ。単純に、日本でホームランになっていたものが二塁打で終わっているということでしょう。意識の変化ということはありません。まあ、フェンスを越えなくなったなあという実感はありますが……」

―― では年齢などによる衰えを意識するようなことはあるのですか

「結果がそれを示しているということはあるかもしれませんが、自分では実感していません。だから、衰えを食い止めるためにこうするとか、こんなことをはじめてみたなんていうのはないですね」

―― 今年は松井選手にとって、はじめて経験するような苦しいことも多かったと思います。でも、そうした経験の中で、新たに野球の魅力を発見したなんていうことはありませんか。

「どうだろう、魅力というのが新たに見つかったということはないですね。ただ、ひとつ、今年になって発見したことがあります。それは負けると疲れるってこと(笑)。今まで負け越したシーズンは一度もなかったんです。これだけ負けたのは野球人生ではじめて。負けると疲れがたまっていくのが分かった。だからすごく疲れたシーズンでしたね」

 シーズンが終わり、注目は松井の来季の契約に集まっている。シーズン末には「オファーがなければ引退も」といった記事も出た。本人はあくまでも一般論として語ったのだが、去就が注目される中で「引退」の二文字はやはり目をひいた。来年は38歳。師である長嶋茂雄が引退したのと同じ年齢に達する。時期はともかく、そう遠くないだろう選手としての終着点を、松井はどう考えているのだろう。

―― キャリアの終着点がいつになるかは別にして、どんな形で終わるといったことは考えていますか。

「辞め方、終わり方にこだわることはないですね。ある日、突然終わるようなことがあるかもしれないし、ずっと野球を続けるかも知れない。自分の気持ちとは関係なく、オファーがなければ終わるということだってある。ただ、何歳までは石にかじりついてもだとか、反対に潔い引き際で終わるとか、フィニッシュの形は考えないですよ。いつ辞めてもいいし、どの時点で辞めたからといって悔いはない。悔いの残るような野球人生は送ってこなかったつもりです」

―― もし、アスレチックスから残留のオファーがあれば。

「契約のことについては、これからじっくり考えたいと思います。ただ、そういうオファーをいただけるのはうれしいことですね」

―― 今年在籍したアスレチックスは、来年、東京でイチロー選手のいるマリナーズと開幕戦をすることが決まりました。来年もアスレチックスのユニフォームを着るかどうかは分かりませんが、もしそうなると仮定して、日本のファンにはどういうところを見てもらいたいですか。

「ここを見て欲しい、オレのここを見てくれというほど自信はないなあ。そこまでオレ様じゃないですよ(笑)。ただ、自分のプレイを生で見たい、日本で見たいと思ってくれているファンがいるのであれば、それはうれしいことですね」

 これまで歩んできた自分の野球人生に「悔いはない」といい切った松井秀喜。そこには選手としての節目が近づいてきた自覚も当然あるだろう。しかし、変化を求めず、自分のスタイルを貫きながら、前に進もう、自分の役割を果たそうとする意欲は少しも衰えていないように見えた。どの色のユニフォームかは別にして、来年の春には当然のように豪快な打球をスタンドに放り込んでいるだろう。
サンケイスポーツ 2011/10/05
松井秀、独占インタビュー(下)去就は白紙
アスレチックスの松井秀喜外野手(37)が、今オフの去就に関して揺れる心境を吐露した。単独インタビュー後編では、ア軍残留をほのめかす発言をした一方、控えとして他球団と契約する可能性も否定しなかった。

 --今オフは「白紙の状態」というが、やはり常時出場が最優先の条件になるのか

 「レギュラーを用意されているのが一番いいが、今年の自分のように用意されていても打てなければ外される。あくまで結果です」

 --では勝てる球団か

 「もちろん勝てるチームはいいが、今の自分は球団を選べる立場の選手ではないと思う」

 --控えとしてのオファーでも受ける可能性があるということか

 「レギュラーは自分でつかみ取るもの。もしも『控えで考えている』といわれても、自分次第でレギュラーをつかみ獲れる。正当に評価さえしてくれればいい」

 --ア軍幹部やメルビン監督は、残留して若手の手本になることも期待している

 「それとこれ(契約問題)は別問題。自分は試合で結果を出すためにチームにいる。グラウンドでは結果が一番大事。ただ試合に臨む準備とか、普段していることで好影響を及ぼせるならいい。もちろん、声をかけて教えてやってくれ、といわれたら、そうします」

 --プロ入り以来初めて観客が少ない本拠地でプレーしたことは契約問題に影響するか

 「確かに少なかったが仕方ない、負けていたんですからね。もっと勝てば、終盤にペナント争いをしていれば絶対にもっと来るはず。そういう状況にしないといけない。勝てばファンも見たいと思うはずです」

 --今季は左翼で27試合出場。ナ・リーグでプレーする自信は

 「ひざの状態はよくて、悪くなることさえなかった。後半戦ぐらいのペース(1カードで1試合)なら来年も大丈夫だが、毎日(左翼で)出るのはやってみないと分からないですね」

 --今オフのトレーニングの予定は

 「早めに始めるつもりです。年をとってくると、一回落とすと、また上げるのに時間がかかる。落ちないうちに始めます。ただ、気持ちがないことには身体を動かすことはできない。トレーニングをし直すのに気持ちが離れていたら厳しい。現時点では、まず“お休み”です」
サンケイスポーツ 2011/10/04
松井秀、独占インタビュー(上)来年もやる!
 苦しかったアスレチックス・松井秀喜外野手(37)のメジャー9年目が終わった。打撃不振でスタメン落ちを味わい、シーズン中の監督交代も初めて経験。個人成績だけでなく所属チームの勝率も自己ワーストだった。それでも米国でオフを過ごしている松井は引退説を一蹴し、来季の巻き返しに向け、冷静に自己分析した。(聞き手・田代学)

 --取りざたされている引退の可能性は

 「来年もやるつもりです。体はまだまだ大丈夫だし、ひざの状態もいいですから。自分の気持ちが切れない限りはやるつもりですけど…“予定”にしてください。どこからも声がかからなければ、やめるしかないですから」

 --前半戦は大不振で試合に出られなかった。引退を考えたか

 「ユニホームを脱ごうかな、なんて考えていません。あくまで一般論。クビを切られ、どこも雇ってくれなければ、やめるしかない。ボクだけが置かれている立場ではなく、だれでもそうなる、というのが現実です」

 --今オフ、オファーがないことを考えるか

 「必要に迫られないと考えません。まずは気持ちと体を休めて、そこから自然とどんな気持ちがわいてくるか。毎年ですが、ある程度いい成績を残しても『もう1回、ゼロから』と思ってきた。成績の良しあしで、気持ちは変わりません。日本復帰? 何回も言っている通り、ありません」

 --最終戦後、今季の成績を「恥ずかしい」と表現した

 「事実ですから。単純に今までの成績と比べてよくない。客観的に見ても、すべてです。良かった時期? 短かった」

 --不振の原因は何か。年齢的な衰えを感じるか

 「その可能性は、もちろんあります。それを含めて細かい反省はこれから。ビデオを見て振り返らないと、何が良くて何が悪かったのかはっきり分からない」

 --飛距離が落ちたのは数年前から筋力トレーニングを止めたのが原因ではないか

 「ボクは『打撃で使う筋力は打撃で鍛えればいい』という考え。ウエートトレをしなくてもフェンスを越えるし、強い打球は打てる。ウエートトレをしていないことが原因なら、もっと前から本塁打が減っていたと思う」

 --速球の打ち損じが目立つという指摘もある

 「速い球は今だけでなく、昔から打っていないと思う。95マイル(約153キロ)以上は、なかなか打つのが難しい」

 --チームは74勝88敗で地区3位

 「勝てないのは選手の責任だが、勝つのと負けるのでは疲労度が違う。ヤンキース時代との比較? 勝っている割合が全然違うから、疲れも違うのは間違いない」

 メジャー10年目、プロ20年目となる来季。ア軍は残留オファーする方針だが、松井は他球団と契約する可能性を否定しなかった。その真意とは-。(下につづく)
web Sportiva 2011/10/04
松井秀喜「どこからも必要とされなければ、引退するしかない」の真意は?
 セカンドハーフ(後半戦)の打率は2割9分5厘(6本塁打)。本来の力を発揮した松井秀喜だが、9月の月間打率は2割1分3厘(1本塁打)と急降下した。少し疲れたのかと問うと、「この時期に疲れてない選手はいないでしょ。それに俺の年齢も考えてよ」と笑い飛ばした。それどころか、クラブハウスの椅子にどっかりと腰を下ろし「打撃は悪くないですよ、うん」。まさに泰然自若。そこには37歳を迎え、規定打席に達した中でワーストの個人成績に終わろうとしている悲壮感などまったくなかった。

 9月21日、本拠地でのレンジャーズ戦。松井はC.J.ウイルソンの91マイルのカットボールを引きつけるだけ引きつけ、左中間へ打ち返した。バットの芯で捕らえ、角度も良く、いつからこんな打撃ができるようになったのかと目を疑うほど完璧な逆方向への打球だった。しかし、オークランドの球場は球が飛ばない。ベイエリア特有の海から湿気を含んだ空気に加え、飛んだ場所があまりにも悪かった。左中間最深部375フィート(約114.3メートル)。打球はフェンスぎりぎりで左翼手のグラブに収まった。

 前日にも似たような光景があった。レンジャーズの左腕・ホランドの94マイルの外角直球を捕らえると、打球は左中間最深部まで飛んでいった。結果はレフトフライも他球場ならば間違いなしに本塁打だった。松井2日連続では逆方向への完璧な本塁打を損した形になったが、「仕方ないでしょ。この球場だもん。いい打撃だったと思いますよ」と、達観していた。

 後半戦、松井の凡打の質が変わってきたと感じる。今季の前半戦を含め、松井の悪い時は圧倒的に内野ゴロが多い。もともと左手首の使い方が上手でなく、左手首を立てるイメージで振り切れなかった。しかし、今季の後半戦は左手首が返ることなく、左手の人差し指と親指の間がスイングのフィニッシュまで上を向き続けている。結果、ゴロとなっても野手がさばきやすいイージーバウンドは少なく、紙一重のアウトが多くなっている。「打撃は悪くないよ」と語る彼の真意はここにあり、来季への手応えもすでに掴んでいると感じた。だからこそ、こんな発言になるのだと思う。

「どこからも必要とされなければ、引退をするしかないよね」

 来季の去就。松井を取り巻く環境を考えれば答えはひとつと考えるのが自然であろう。37歳の指名打者兼外野手ではFA市場での需要は少ない。その中で現所属球団であるアスレチックスは契約更新に向け〝前向き〟の姿勢を見せている。

 メジャー30球団を見渡しても、アスレチックスの集金力は下から数えた方が早い。しかし、その中で球場広告は過去に例を見ない数の日本企業がスタジアムを埋めつくした。今季本拠地最終シリーズのレンジャーズ戦でも、ファンへの場内プロモーションは松井ばかり。その上に来季のマリナーズとの日本開幕戦もある。オーナーのルイス・ウルフ氏は自軍のラジオ中継内で、「日本の2大スター(イチロー、松井)がいるんだから楽しみだよね」と、すでに球団の熱意をファンに公言している。

 メルビン代行の監督就任も松井にとってはありがたいことだ。昨今はデータを重視し日替わり打線を組む監督が多いなか、メルビン監督はレギュラー固定の考えを持ち、その結果、松井も前半戦の不振から蘇(よみがえ)った。アスレチックスと松井の独占交渉期間はワールドシリーズ終了後5日間までだが、期間内の新契約の締結の可能性は高い。

 来季はメジャー10年目。松井秀喜の集大成を見せるためにも決断は早いほうがいい。そして、準備を万端に整え、節目の年に不退転の決意で挑んで欲しい。