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Columnコラム

スポーツナビ 杉浦大介 2007/06/19
松井秀喜が子どもたちへ示すメッセージとは? 独占インタビュー
松井「野球に真剣に取り組む姿勢を見てほしい」

 今季も中盤戦を迎え、徐々に調子を上げてきたヤンキースの松井秀喜。

 4月には太ももをケガし、昨季に続いてのDL(故障者リスト)入りを経験。チームも近年まれに見る不振に見舞われた。
 しかし、そんなシーズンの中でも、松井は例年通り3割前後の打率を残し、確実に打点を稼ぎ続けている。この安定感こそが「メジャーでも有数の基本がしっかりしたプレーヤー」といわれるゴジラ松井の真骨頂である。

「松井の働きを見落とすべきではない。足は速くないが走塁は素晴らしいし、肩はそれほど強くなくても送球は素早い。飛び抜けた素材ではなくとも、完ぺきなプレーをしてくれる選手だ」
 チームが9連勝を記録した6月14日のダイアモンドバックス戦後、ジョー・トーリ監督はそう語り、松井の堅実さを絶賛していた。重いケガやチームの不振に見舞われても、長い野球人生の中で育んできた強靭(きょうじん)な基礎は決して揺るぎない。

 そして、松井がそんな野球人としての基礎を築いた場所、故郷の石川県金沢市から、偉大な先輩を慕う子どもたちが、もうすぐニューヨークにやって来る。ヤンキース傘下1Aのスタッテンアイランド・ヤンキースが企画し、松井が全面的にバックアップする日米の子どもたちの国際交流事業「松井秀喜のインターナショナル・フレンドシップ・プログラム」もことしで3回目。14日の試合後、7月に行なわれるこのイベントについて、松井に話を聞いた。子どもたちに関する質問には、松井もシーズン中の緊張を解き、ほおを緩めて答えてくれた。

――このプログラムのどの部分に興味を持って協力を決意されたのでしょうか?

 子ども同士の国際交流ができる機会なんてなかなかないことですから、貴重な経験になってくれれば良いなと思いました。それに僕の地元の子どもたちが参加してくれるというのもうれしかったので、ぜひ実現してほしいと思ったんです。

――以前も「野球を通じての国際交流」に言及されていましたね

 僕も子どものころから野球をやってきましたけど、野球は世界共通なんですよ。そういった意味で、野球を通じて子どもたちの出会いが広がって、これから成長していく過程でのプラス材料にしていってくれれば素晴らしいですよね。

――その子どもたちに、ヤンキース選手として、松井秀喜のどんな部分を見てほしいと考えていますか?

 やっぱり、野球に対して真剣に取り組む姿勢は見てほしいです。もちろんそれは野球に限らず、ほかのことに対しても同じなのかもしれないですけど、物事に常に全力を注ぎ込んで、真剣に取り組むということを僕も常に心掛けてきたんです。だから皆さんにも、一つのものに向かっていく情熱、強い気持ちを大切にしていってほしいなと思います。ただその中でも、特に野球はチームスポーツだから、チームメートに対する思いやりみたいなものを大切にして、相手チームに対する敬意も大事にしてほしいですね。

桑田との対戦で見せた思いやり

 松井が大事にしてほしいと語る「チームメートに対する思いやり」「対戦相手に対する敬意」は、6月10日のパイレーツ戦で迎えた元同僚であり先輩・桑田真澄との初対決時にもよく示されていた。
 その当日の試合前には、メジャー初昇格となった桑田を気遣ってあえて声をかけなかった。そして試合後には、「ヤンキー・スタジアムで桑田さんと対決できただけで思い出になった」と笑顔で語った。今は敵味方となった先輩への思いやりは、実に彼らしいと言えただろう。

 そして松井のこういった真摯(しんし)な姿勢は、旧知の仲の選手にだけ向けられるものでは決してない。昨季中、レッドソックスのリリーフ投手、マイク・ティムリンが筆者にこう語ってくれたのを思い出す。
「松井はどんな小さなことでも当然のものとは思わず、最善の努力をする。人間的にも素晴らしい男だよ」
 このような称賛を相手チームから受ける選手は、それほど多くはいない。特に生き馬の目を抜くようなニューヨークの街ではなおさらである。

 今回のプログラムで渡米する子どもたちは、7月31日にヤンキー・スタジアムでのホワイトソックス戦を観戦する。そこで彼らは、ニューヨークでこれまで松井が築き上げてきた存在感、人々からの信頼感を少なからず感じ取れるはずだ。

言葉だけでなくプレーで示すメッセージ

「野球を通じたチームメートとの団体生活は、これからの人生にも役立つことはたくさんあるはず。いろいろなことを体験して成長していってほしい。精いっぱい楽しんで、良い財産にしてほしい」
 インタビューの最後に、参加する子どもたちにメッセージを残した松井。

 オールスターブレイクを経て、首位を走るレッドソックスとの地区優勝争いはさらに激しくなる。世界一に近づくために、そしてこの街で築いた信頼を保つために、この夏は松井のキャリアにとっても重要な季節となるかもしれない。故郷・金沢の子どもたちとの邂逅(かいこう)、交流を力に、今後の大事な戦いの中でゴジラ松井の猛チャージを期待したい。
 その活躍こそが、イベントに参加する子どもたちだけでなく、日本中の子どもたちへのメッセージになるのだから。