スポーツナビ 杉浦大介
2007/07/18
ファンが“ゴジラ松井”に期待すること 最近11試合で6本、本塁打量産体勢へ
松井秀の快音とともにチームも復調
オールスターブレークを挟み、松井秀喜が好調な打撃を続けている。7月17日(現地時間)のブルージェイズ戦を終えて打率2割8分3厘、14本塁打。12試合連続安打を放ち順調に打率を上げてきただけでなく、最近の11試合で6本塁打とパワーも爆発中。さらに16日まで11試合連続得点と、チャンスメーカーの役割も果たしている。
後半戦に「ミラクルラン」が必要なヤンキースは、時を同じくしてここ13戦中10勝と好調。打線の鍵を握る松井とチームの復調が重なったことは、決して偶然ではないだろう。
松井の打撃好調の具体的な要因については、15日のデビルレイズ戦中にテレビ解説のマイク・フラハティ氏が語った指摘が的を射ているように思える。「最近の松井は球を手元まで引き付けて、フィールド全体を使った打撃ができるようになった。ポイントがより近くなったことが大きいんだ」
不振中には、ジョー・トーリ監督も盛んに松井の「引っ張り過ぎ」を言及していた。しかし、ここにきてそれが解消され、奇麗な広角打法が展開できるようになった。真ん中より内側の球は迷わず強振し、外の球はギリギリまで引き付けて逆らわずにレフトに飛ばす。
ベテラン選手をうならせる適応能力
これだけよくボールが見えている今、ストライクゾーン内にこれといった弱点はない。相手投手もさぞかし投げ難いことだろう。
いずれにしても、チームと足並みをそろえた不振がこのままズルズル続くかと思われた中で、シーズン半ばにきて確実に立て直しているのはさすがである。
ここ1カ月の間、筆者は松井の「パワーダウン」「年齢による衰え」などが地元でも心配されていることを紹介するコラムを書いてきた。だが暑い夏が来て、そんな懸念を吹き飛ばす上昇ぶり。
松井の復活について、元中日ドラゴンズ選手としても活躍し、現在はブルージェイズのマット・ステアーズはこう語っている。
「(松井は)適応能力に非常に優れていて、常に打撃に工夫を施しているね。ここまでの流れを見る限り、今季中も適切なアジャストを行ったのだろう。メジャーはチーム数が多いし、数え切れないほど多くの投手がいる。強打者なら研究もされる。だから、毎年シーズン中でさえ細かなアジャストをしないといけない。常に何かを変えなければならないんだ。それができる松井は本当にいい選手だと思うよ」
毎年必ずフォームを調節し、体調を整え、新たな投手にも適応する。常に新しいシーズン用の自分を形作る。それを継続してできる者こそが、入れ替わりの激しいメジャーで生き残る。39歳になってもなおメジャーの強打者であり続けるステアーズの言葉は、松井がニューヨークで着実な足跡を築き、そして今季も再浮上を始めた理由を分かりやすく示してくれている。
「日米のレベルの差は確実に縮まっている」
もっとも、打撃自体の復調は適応能力に結び付けて納得できても、ここに来ての松井のパワー爆発ぶりには驚いたという人は多いかもしれない。最近の11試合で6本塁打。17日のブルージェイズ戦ではギリギリのファウルで惜しくもサヨナラ弾を逃したが、それでも過去4年間の間に一度もなかったハイペースで本塁打を打っていることに変わりない。
この爆発の理由付けをすることは現時点では難しい。キャリアのこの時期に突然パワーが増すとは考え難いし、実際にレフト方向への大飛球がフェンス前で失速してしまう点は以前と変わっていない。パワー面では日本最強の長距離打者である松井も、そこが限界だったのではなかったか。
筆者はここ数カ月、前記のステアーズを始め、日本でプレー経験のあるメジャーリーガーやコーチに両国の野球の違いについて取材してきた。ウィリー・アップショー(元ダイエー、現ジャイアンツコーチ)、フリオ・フランコ(元ロッテ、12日メッツ解雇)らに話を聞くと、そろって「日米の野球のレベルの差は確実に縮まっている」と語ってくれた。
それでもパワー不足には歴然たる差あり
だがその一方で、彼らは例外なくこういったコメントも付け加えた。
「パワー面ではまだ歴然とした差があるかもしれないね」(アップショー)
「メジャーでは先発は5番手まで好投手がそろっている。リリーフ投手のレベルも高い。日本は先発の好投手は3番手くらいまでだし、球場の大きさも違う。だから日本人選手のメジャーでの本塁打量産は難しいのだろう」(ステアーズ)
しかし、現在の松井は、彼らが語った「日本人に長打を望むのは難しい」という固定観念を覆す勢いで本塁打を量産している。スラッガーのそろったヤンキース内でも、本塁打数はアレックス・ロドリゲス(17日現在で32本)に次いで2位。このままのペースで打てば、2004年の31本塁打以上を打っても不思議はない。
日本最強のパワー打者が、メジャーの舞台でも立派に長距離砲の役割を果たしている。そして、こんな姿こそが、メジャー入団当初から日本のファンが“ゴジラ松井”に期待していたものだったのだろう。もちろん、このペースがいつまで続くかは分からない。ヤンキース内での松井の役割を考えても、特に強豪チームとの対戦では長打より自分を殺した打撃が求められる。チームが連日の必勝態勢にいることを顧みればなおさらだ。
だが、それでも……やはり本塁打は「ベースボールの華」。松井が今後も豪快な一発を打ち続け、パワー不足の声も吹き飛ばし、日本野球経験者たちをも驚かす姿をどうしても期待したくなってしまう。もし、それが実現すれば、間違いなくヤンキースの勝利にも結び付いてくるはず。「ゴジラパワー全開」の季節が続くことを願っているのは、私たち日本人だけでは決してないはずなのだ。
オールスターブレークを挟み、松井秀喜が好調な打撃を続けている。7月17日(現地時間)のブルージェイズ戦を終えて打率2割8分3厘、14本塁打。12試合連続安打を放ち順調に打率を上げてきただけでなく、最近の11試合で6本塁打とパワーも爆発中。さらに16日まで11試合連続得点と、チャンスメーカーの役割も果たしている。
後半戦に「ミラクルラン」が必要なヤンキースは、時を同じくしてここ13戦中10勝と好調。打線の鍵を握る松井とチームの復調が重なったことは、決して偶然ではないだろう。
松井の打撃好調の具体的な要因については、15日のデビルレイズ戦中にテレビ解説のマイク・フラハティ氏が語った指摘が的を射ているように思える。「最近の松井は球を手元まで引き付けて、フィールド全体を使った打撃ができるようになった。ポイントがより近くなったことが大きいんだ」
不振中には、ジョー・トーリ監督も盛んに松井の「引っ張り過ぎ」を言及していた。しかし、ここにきてそれが解消され、奇麗な広角打法が展開できるようになった。真ん中より内側の球は迷わず強振し、外の球はギリギリまで引き付けて逆らわずにレフトに飛ばす。
ベテラン選手をうならせる適応能力
これだけよくボールが見えている今、ストライクゾーン内にこれといった弱点はない。相手投手もさぞかし投げ難いことだろう。
いずれにしても、チームと足並みをそろえた不振がこのままズルズル続くかと思われた中で、シーズン半ばにきて確実に立て直しているのはさすがである。
ここ1カ月の間、筆者は松井の「パワーダウン」「年齢による衰え」などが地元でも心配されていることを紹介するコラムを書いてきた。だが暑い夏が来て、そんな懸念を吹き飛ばす上昇ぶり。
松井の復活について、元中日ドラゴンズ選手としても活躍し、現在はブルージェイズのマット・ステアーズはこう語っている。
「(松井は)適応能力に非常に優れていて、常に打撃に工夫を施しているね。ここまでの流れを見る限り、今季中も適切なアジャストを行ったのだろう。メジャーはチーム数が多いし、数え切れないほど多くの投手がいる。強打者なら研究もされる。だから、毎年シーズン中でさえ細かなアジャストをしないといけない。常に何かを変えなければならないんだ。それができる松井は本当にいい選手だと思うよ」
毎年必ずフォームを調節し、体調を整え、新たな投手にも適応する。常に新しいシーズン用の自分を形作る。それを継続してできる者こそが、入れ替わりの激しいメジャーで生き残る。39歳になってもなおメジャーの強打者であり続けるステアーズの言葉は、松井がニューヨークで着実な足跡を築き、そして今季も再浮上を始めた理由を分かりやすく示してくれている。
「日米のレベルの差は確実に縮まっている」
もっとも、打撃自体の復調は適応能力に結び付けて納得できても、ここに来ての松井のパワー爆発ぶりには驚いたという人は多いかもしれない。最近の11試合で6本塁打。17日のブルージェイズ戦ではギリギリのファウルで惜しくもサヨナラ弾を逃したが、それでも過去4年間の間に一度もなかったハイペースで本塁打を打っていることに変わりない。
この爆発の理由付けをすることは現時点では難しい。キャリアのこの時期に突然パワーが増すとは考え難いし、実際にレフト方向への大飛球がフェンス前で失速してしまう点は以前と変わっていない。パワー面では日本最強の長距離打者である松井も、そこが限界だったのではなかったか。
筆者はここ数カ月、前記のステアーズを始め、日本でプレー経験のあるメジャーリーガーやコーチに両国の野球の違いについて取材してきた。ウィリー・アップショー(元ダイエー、現ジャイアンツコーチ)、フリオ・フランコ(元ロッテ、12日メッツ解雇)らに話を聞くと、そろって「日米の野球のレベルの差は確実に縮まっている」と語ってくれた。
それでもパワー不足には歴然たる差あり
だがその一方で、彼らは例外なくこういったコメントも付け加えた。
「パワー面ではまだ歴然とした差があるかもしれないね」(アップショー)
「メジャーでは先発は5番手まで好投手がそろっている。リリーフ投手のレベルも高い。日本は先発の好投手は3番手くらいまでだし、球場の大きさも違う。だから日本人選手のメジャーでの本塁打量産は難しいのだろう」(ステアーズ)
しかし、現在の松井は、彼らが語った「日本人に長打を望むのは難しい」という固定観念を覆す勢いで本塁打を量産している。スラッガーのそろったヤンキース内でも、本塁打数はアレックス・ロドリゲス(17日現在で32本)に次いで2位。このままのペースで打てば、2004年の31本塁打以上を打っても不思議はない。
日本最強のパワー打者が、メジャーの舞台でも立派に長距離砲の役割を果たしている。そして、こんな姿こそが、メジャー入団当初から日本のファンが“ゴジラ松井”に期待していたものだったのだろう。もちろん、このペースがいつまで続くかは分からない。ヤンキース内での松井の役割を考えても、特に強豪チームとの対戦では長打より自分を殺した打撃が求められる。チームが連日の必勝態勢にいることを顧みればなおさらだ。
だが、それでも……やはり本塁打は「ベースボールの華」。松井が今後も豪快な一発を打ち続け、パワー不足の声も吹き飛ばし、日本野球経験者たちをも驚かす姿をどうしても期待したくなってしまう。もし、それが実現すれば、間違いなくヤンキースの勝利にも結び付いてくるはず。「ゴジラパワー全開」の季節が続くことを願っているのは、私たち日本人だけでは決してないはずなのだ。