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Columnコラム

スポーツナビ 梅田香子 2005/03/10
“ミスター・ヤンキース”へと歩む松井秀
梅田香子の『メジャー交友録 2005』 VOL.3
松井秀「オープン戦は数字より内容」

 開幕から4番を打つという呼び声が高い松井秀喜。仮に5番になったとしても、すでに実績を挙げているため、1年目と違ってオープン戦では、さほど結果を求められていない。

 メジャーはある意味で実績重視主義(ただし、あくまでメジャーでの実績で日本はほとんど含まれていない)。だからベテランと同様、あくまで開幕に合わせてマイペースで調整を進めるだけでOKなのだ。もちろん松井本人もそれは百も承知していて、
「仕上がりはまあまあってとこかな。結果や数字を気にしなくていいから、自分のバッティングをより追及していくつもりです。数字よりも内容ですね。でも、ゲームにはシーズン中と同じように集中してプレーするつもりですよ」
 と気楽なことを言っていたのだが、それが功を奏しているらしく、早くもオープン戦で初アーチが飛び出している。しかもサインを勘違いして初盗塁のおまけ付きだった。対戦相手のレッドソックスといえば、最大のライバルにしてディフェンディング・チャンピオン。しかも今季は、4月3日(現地時間)に開幕戦で激突する。4月11日のレッドソックス本拠地開幕戦では、ヤンキースの目の前で優勝リングの贈呈式が行われる予定になっている。

 松井は言った。
「僕は気にしませんよ。かえって気持ちが発奮していいんじゃないですか」

汚名返上を期す好調ジアンビー

 昨年はケガや良性腫瘍などで不本意な成績に終わった上、元同僚のホセ・カンセコが暴露本を出版したおかげで、薬物使用疑惑で渦中の人となってしまったジェイソン・ジアンビーも打撃好調だ。
「このオフにはかつてないほど大勢のファンから励ましの手紙をもらった。彼らのためにも頑張りたいよ」としんみりとした様子。ジョー・トーレ監督は例によって自軍の選手は徹底的にかばう、頼もしい指揮官である。「ホセ・カンセコの本を私は読んでいないが、テレビ番組でのインタビューは見た。どうも彼は実際に目撃したわけではなく、伝聞したことを本に書いているみたいだ」

 主将のデレック・ジーターは、「チームってのは一つの家族みたいなものだ。だから、僕たちは彼を全面的にサポートするつもりだよ」と発言していて、これも頼もしい限りだが、一方でゲーリー・シェフィールドが、「僕は薬物とは知らずに使っただけ。わざわざ会見を開き、謝罪したジェイソン・ジアンビーとは違う」などと言い出す始末。さすがは“ブロンクスの動物園”という異名を取るだけあって、一筋縄ではいかない個性の強い面々である。いつ空中分解してもおかしくない状況にあるのだが、トーレ監督が健在でいる限り、ヤンキースは今季もまとまり、首位戦線に食い込むのだろう。

「プレーで結果を出すしかない」というのもトーレ監督の言葉だが、ジアンビーは見事にそれを実行に移しているようだ。

薬物疑惑渦中のジアンビーに松井秀は?

 薬物使用疑惑も何もあったものではない松井は一応は、「大変ですよね……」とジアンビーに同情はしているようだが、やはり自分には関係ないという安堵(あんど)感を漂わせている。

 一般にステロイドを常用すると、背中や顔の皮膚から毒素が出るから荒れてくると、うわさされているのだが、松井の場合は年々つややかな「美肌」に変わっていくようで、星稜高校時代のニキビ面が今となっては懐かしい。松井のモットーは、「快食快眠快便」だそうで、アロエのエキスを抽出した飲料水を大量に愛飲しているから、薬物疑惑どころか、どこまでいってもナチュラル・ボディー派なのだ。

巨匠に認められた“Mr.ヤンキース・マツイ”

 さて、北米では毎年4月になると、野球関連の写真集が何冊も発売になり、書店でコーナーを作る。日本では考えられない光景だが、家屋あるいは身体の平均的なサイズが大きなせいか、アメリカ人の写真集好きには驚かされる。写真のクオリティーが高く、ページ数も多くて内容の濃いものがよく売れるようだ。

 先日はトーレ監督やジーター、新加入のランディー・ジョンソンらとともに、『ニューズウィーク』誌の撮影が行われた。撮影を担当したオジー・スウィートといえば、おそらくロバート・キャパと同格、あるいはそれ以上に後世まで名を残すだろうと言われる、生ける伝説のフォトグラファーである。そのスウィートがヤンキースの顔として選んだのは、松井秀喜だった。

 もともとはコネチカット州の出身だが、ロサンゼルスで写真を学び、第2次世界大戦ではコンバット・フォト部門で大活躍した。これまで1500もの雑誌の表紙を撮影してきたのだが、意外なことに日本人大リーガーはこれが初めて。すでに87歳で、現在はニューハンプシャーの田園で33歳年下のデイアン夫人と何自由なく、優雅なセミリタイア生活を満喫しているところなので、本当に撮りたいと思う被写体のときだけしか仕事は引き受けないのだ。

「松井秀喜を撮りたいと言ってもらいました。ミッキー・マントルとかも撮影した人なんでしょ。光栄です」
 松井はグラウンドに描かれたヤンキースのロゴの前で、指示されたとおり中腰でバットを左肩にかけ、無事に撮影を終えた。メジャーの慣例に従って、ノーギャラというのも、いかにも松井らしい。

スウィートの作品は、そうした写真集に使われるのはもちろんのこと、クーパーズタウンの野球博物館にも多数保管されている。松井はどうやら確実に、“ミスター・ヤンキース”の地位を残すことになりそうだ。