スポーツナビ 杉浦大介
2005/04/04
「スター」から「ヒーロー」へ……オーラをまとった松井秀喜
特別な選手のみが持つオーラ
今季の松井秀喜の周囲を包み込む一種独特の雰囲気を、どう表現したら良いのだろう。「強者のみが持つオーラ」とでも呼ぶべきか?
ヤンキースのクラブハウスをすべて見渡してみても、実際に、今の松井と同等のオーラを持つ選手はそれほど多くはない。デレック・ジーター、ゲーリー・シェフィールド、ランディー・ジョンソン、マリアーノ・リベラ……くらいのものか。
約200億円が費やされたスター軍団。だが、そんな伝統のヤンキースの中にあっても、今の松井は特別な存在となりつつある。能力だけではない、それ以上の「何か(something)」を持った選手のみが発するオーラを、松井は3年目にしてまとい始めているのである。
開幕戦、人々の想像を超えた松井
2005年のメジャーリーグ・オープニングゲーム、ヤンキース対レッドソックス戦。多くのファンが待ちに待った今シーズンは、全米が注目する最高のカードで幕を開けることになった。こんな大事な試合で、オープン戦から絶好調、成長著しい松井が、チームの中心として活躍することを誰もが期待した。松井の攻守が、ヤンキースを宿敵相手の勝利に導くことも想像できた。
だが、彼はそれ以上のことを見事にやってのけた。
2回表、松井がレフトフェンスを超える大飛球をつかみ取るスーパーキャッチで、ランディー・ジョンソンの立ち上がりを助けることを、誰が想像できただろうか?
また、いきなりの3安打はともかく、今季のメジャー第1号ホームランまで記録してしまうことは、あまりに出来過ぎのシナリオではないか。
脇役から主役へ……変わり始めた3年目
正直言って、過去2年の間に日本から伝わって来た松井秀喜に関する報道を見ると、首をかしげるものが多かったのは事実だ。日本では国民的英雄の松井も、ニューヨークでは決してスペシャルな存在ではなかった。いわゆる「ゴジラフィーバー」といったものは、実際にはアメリカには全く存在しなかったと言っていい。
もちろん松井がニューヨーカーに評価されていなかったわけではない。地味ながら、堅実で勝負強い、いかにもヤンキース好みのプレーヤーとして高く評価されてはいた。ようするに彼は、「期待に応えてくれる選手」だった。どんな形であれ、必ずランナーをホームにかえしてくれる選手。驚くようなスーパーキャッチや好走塁はなくとも、頭の良い守備、走塁をしてくれる選手。それにしても、誰にでもできることではない。献身的な松井は、ジョー・トーレ監督のお気に入りだったし、スーパースターの間のつなぎ役としては最適のプレーヤーだった。たとえ、豪快なホームランばかりを望む日本のファンは不満だったとしても……。
しかし、そんな脇役・松井が変わり始めたのは、昨年のプレーオフあたりからだっただろうか。いつからか彼は、人々の「期待を超えてしまう」ようになっていた。
ニューヨーカーが定義する「ヒーロー」とは?
「期待に応えてくれる選手」を、人々は「スター」と呼んでもてはやす。だが、「期待や予想をもはるかに超えてしまう選手」は、さらに「ヒーロー」と呼ばれ、あがめられる。
ジーターは、目を見張る数字は残さずとも、誰も想像もできないようなプレーを時にみせてくれる。人々を仰天させるプレーの方法は、彼のDNAにのみ組み込まれているのだろう。
プレーオフになると決まって超人的なピッチングをするリベラは、間違いなくメジャー史上最強のクローザーだ。平常時よりも、危機になるとカッターのキレがより鋭くなる事実は、メジャーでも最大の驚異である。
昨シーズン、ビーンボールを受けた次の投球に体ごと踏み込んでいって、見事にホームランにしたシェフィールドの精神構造は、われわれの常識をはるかに超えている。彼に「恐れ」は存在するのだろうか?
40歳にして軽々とパーフェクトゲームを達成したジョンソンは、高齢とともに衰えるという自然の摂理に反する存在である。彼の速球の伸びは、若き日よりも激しいように思えて仕方ない。
ここに挙げた4人は、ニューヨークでも紛れもない「ヒーロー」として認識されている。彼らは時に人間の常識を超えたレベルのパフォーマンスを見せ、私たちを圧倒し、混乱させ、そして感動させる。彼らは時に、ごう慢なほどの独自のやり方で、たった独りでゲームを変えてしまうのだ。
ジアンビー 「松井がゲームを変えた」
試合後に、ジェイソン・ジアンビーはいまだ興奮気味の表情でこう語った。
「松井のスーパープレーがとにかく大きかった。ランディー・ジョンソン相手に2ランホームランが生まれたら、相手の意気がどれだけ上がっていたと思う? 松井によってそれは変えられた。そう、松井は今日のゲームを変えたんだよ!」
定められたストーリーのように幕開けした2005年。松井を包むオーラが、今後どこに向かうのかは分からない。多くのアメリカ人評論家が松井をMVP候補と予想する中、どれだけの数字を残してくれるのかも分からない。
もはや想像は難しい。ジーターやリベラと似た位置に、彼は間もなく達しようとしている。「NYの英雄」と呼ばれる場所に――。
今季の松井秀喜の周囲を包み込む一種独特の雰囲気を、どう表現したら良いのだろう。「強者のみが持つオーラ」とでも呼ぶべきか?
ヤンキースのクラブハウスをすべて見渡してみても、実際に、今の松井と同等のオーラを持つ選手はそれほど多くはない。デレック・ジーター、ゲーリー・シェフィールド、ランディー・ジョンソン、マリアーノ・リベラ……くらいのものか。
約200億円が費やされたスター軍団。だが、そんな伝統のヤンキースの中にあっても、今の松井は特別な存在となりつつある。能力だけではない、それ以上の「何か(something)」を持った選手のみが発するオーラを、松井は3年目にしてまとい始めているのである。
開幕戦、人々の想像を超えた松井
2005年のメジャーリーグ・オープニングゲーム、ヤンキース対レッドソックス戦。多くのファンが待ちに待った今シーズンは、全米が注目する最高のカードで幕を開けることになった。こんな大事な試合で、オープン戦から絶好調、成長著しい松井が、チームの中心として活躍することを誰もが期待した。松井の攻守が、ヤンキースを宿敵相手の勝利に導くことも想像できた。
だが、彼はそれ以上のことを見事にやってのけた。
2回表、松井がレフトフェンスを超える大飛球をつかみ取るスーパーキャッチで、ランディー・ジョンソンの立ち上がりを助けることを、誰が想像できただろうか?
また、いきなりの3安打はともかく、今季のメジャー第1号ホームランまで記録してしまうことは、あまりに出来過ぎのシナリオではないか。
脇役から主役へ……変わり始めた3年目
正直言って、過去2年の間に日本から伝わって来た松井秀喜に関する報道を見ると、首をかしげるものが多かったのは事実だ。日本では国民的英雄の松井も、ニューヨークでは決してスペシャルな存在ではなかった。いわゆる「ゴジラフィーバー」といったものは、実際にはアメリカには全く存在しなかったと言っていい。
もちろん松井がニューヨーカーに評価されていなかったわけではない。地味ながら、堅実で勝負強い、いかにもヤンキース好みのプレーヤーとして高く評価されてはいた。ようするに彼は、「期待に応えてくれる選手」だった。どんな形であれ、必ずランナーをホームにかえしてくれる選手。驚くようなスーパーキャッチや好走塁はなくとも、頭の良い守備、走塁をしてくれる選手。それにしても、誰にでもできることではない。献身的な松井は、ジョー・トーレ監督のお気に入りだったし、スーパースターの間のつなぎ役としては最適のプレーヤーだった。たとえ、豪快なホームランばかりを望む日本のファンは不満だったとしても……。
しかし、そんな脇役・松井が変わり始めたのは、昨年のプレーオフあたりからだっただろうか。いつからか彼は、人々の「期待を超えてしまう」ようになっていた。
ニューヨーカーが定義する「ヒーロー」とは?
「期待に応えてくれる選手」を、人々は「スター」と呼んでもてはやす。だが、「期待や予想をもはるかに超えてしまう選手」は、さらに「ヒーロー」と呼ばれ、あがめられる。
ジーターは、目を見張る数字は残さずとも、誰も想像もできないようなプレーを時にみせてくれる。人々を仰天させるプレーの方法は、彼のDNAにのみ組み込まれているのだろう。
プレーオフになると決まって超人的なピッチングをするリベラは、間違いなくメジャー史上最強のクローザーだ。平常時よりも、危機になるとカッターのキレがより鋭くなる事実は、メジャーでも最大の驚異である。
昨シーズン、ビーンボールを受けた次の投球に体ごと踏み込んでいって、見事にホームランにしたシェフィールドの精神構造は、われわれの常識をはるかに超えている。彼に「恐れ」は存在するのだろうか?
40歳にして軽々とパーフェクトゲームを達成したジョンソンは、高齢とともに衰えるという自然の摂理に反する存在である。彼の速球の伸びは、若き日よりも激しいように思えて仕方ない。
ここに挙げた4人は、ニューヨークでも紛れもない「ヒーロー」として認識されている。彼らは時に人間の常識を超えたレベルのパフォーマンスを見せ、私たちを圧倒し、混乱させ、そして感動させる。彼らは時に、ごう慢なほどの独自のやり方で、たった独りでゲームを変えてしまうのだ。
ジアンビー 「松井がゲームを変えた」
試合後に、ジェイソン・ジアンビーはいまだ興奮気味の表情でこう語った。
「松井のスーパープレーがとにかく大きかった。ランディー・ジョンソン相手に2ランホームランが生まれたら、相手の意気がどれだけ上がっていたと思う? 松井によってそれは変えられた。そう、松井は今日のゲームを変えたんだよ!」
定められたストーリーのように幕開けした2005年。松井を包むオーラが、今後どこに向かうのかは分からない。多くのアメリカ人評論家が松井をMVP候補と予想する中、どれだけの数字を残してくれるのかも分からない。
もはや想像は難しい。ジーターやリベラと似た位置に、彼は間もなく達しようとしている。「NYの英雄」と呼ばれる場所に――。