スポーツナビ 杉浦大介
2006/03/27
松井秀喜にスポットライトはいらない ヤンキース、王者奪回へ始動
「自分の立てたプランからは外れない」
2006年の松井秀喜は、開幕が近づくにつれて当然のように調子を上げて来ている。
左ひざの腫れでオープン戦開始当初はDHで出場し、コンディション面でやや心配された時期もあった。だが、3月18日には今春2本目の本塁打を放つなど、調整はここにきてすこぶる順調だ。
ワールドチャンピオン奪回が至上命令の今季に向け、チーム内で最も安定した打者の存在は、ヤンキースにとっても心強い限りだろう。現段階では今季の打順は未定のようだが、ドン・マッティングリー打撃コーチも松井に関しては何の心配もしておらず、全幅の信頼を寄せたコメントを残している。
「マツイは常に安定しているね。ボールもよく見えている。彼は自分の立てたプランから大きく外れることは決してない」
「安定」という言葉はマツイのためにある
この「安定」とは、松井のためにあるような言葉だ。毎年確実に打率を上昇させ、3年連続で100打点以上を記録してきた。クリーンアップにもほぼ定着し、常に的確な貢献を続けている。4年目を迎えた松井にとって、「スター軍団・ヤンキースの主力選手」としての地位や名声も、すでに安定したものとなっているのだ。
もっとも、そんな松井の活躍が地元ニューヨークでは、まるでニュースになっていないと聞けば、多くの日本人ファンは驚くかもしれない。
実際、昨秋に契約延長が成立して以降、ニューヨークメディアの間で松井の名が登場することなど皆無だった。今春の調整具合も、地元ではほとんど報道されていない。オープン戦での2本塁打も『ニューヨーク・タイムズ』紙などで数行の記事が載った程度。唯一騒がれたのは「ワールドベースボールクラシック(WBC)」への不参加だけ。それ以外では、ヤンキースの松井にまつわるエピソードやコラムなど、今はほかのどのニュースを探してもなかなか見つからないのが現状だ。
こういった状況は、1、2年目の「ゴジラ」の露出の多さを思うとやや寂しい気もする。
地元メディアの“松井無関心”はいい兆候
しかし、この地元メディアにおける「松井不在」についても、悪く考える必要はまったくなさそうだ。
筆者はここ数日間、米プロバスケットボール協会(NBA)やボクシングなどの取材現場で、“AP通信”や“ブロンクス・タイムズ紙”といった媒体のニューヨーク在住記者たちと話す機会があった。そこで野球の取材も行っている彼らに、今の松井の率直な「ニュース価値」を尋ねてみた。すると、以下のような言葉が次々と返ってきたのだ。
「松井のように常にハイレベルで安定してしまっている選手は、もうネタにはなりにくいのさ。もちろん、それは尊敬の裏返しでもあるんだけどね」
「3割前後の打率、30本前後のホームラン、そして100打点以上といった成績は今季も間違いなく残すだろう。そうやって好成績があまりに簡単に予測できる選手の記事は、逆に書くのが難しいんだよ」
彼らのこういった言葉は、すべてのメディアやファンの気持ちを分かりやすく代弁しているとも言える。これは悪く考えるどころではない。泣く子も黙る名物オーナー、ジョージ・スタインブレナー氏の率いるヤンキースにおいても、これ程までに絶対の信頼を受ける選手はまれな存在だからだ。
毎年、鳴り物入りの怪物たちがニューヨークには何人もやって来る。特にヤンキースはデレック・ジーター、ポール・オニール、ティノ・マルティネスらを擁する黄金期が去って以来、数多くの金の卵を世界中からかき集める方針を取って来た。
近年ではまれなニューヨークの成功例として
だが、プレッシャーも段違いのこの街では、スタープレーヤーの誰もが成功できるわけではない。いや、むしろ失敗例の方が断然に多いくらいだ。
かつての豪快さを失くしたジェイソン・ジアンビー。ニューヨークでは何もできないままひっそりと引退したケビン・ブラウン。シカゴ(ホワイトソックス)で自由を得るまでは、束縛された子どものようだったホセ・コントレラス。MVPを取っても勝負弱さの方が先に頭に浮かぶアレックス・ロドリゲス。そして昨季、新たな失敗例に挙げられたランディー・ジョンソン。
しかしそんな中で、松井ほど順調にヤンキースでの3年間を過ごした選手も珍しいだろう。近年では、ほとんど唯一のニューヨークの成功例だ。淡々と黙々と、曇りのない活躍を続けている。そして4年目の開幕を直前に控えた段階で、「3割30本は当然の打者」とまで呼ばれ、静かな尊敬を集めているのだ。
今季こそ王座奪回に燃えるヤンキースは、再び世界規模の注目を浴びている。だが、新加入のジョニー・デイモンらに比べ、松井がそれほど大きなスポットライトの下に立つことはないかもしれない。
松井はただ懸命に努力し、当たり前のように順調に調整し、開幕にも万全で臨むのだろう。絶対的な信頼感の中で当然のように打ち始め、チームを確実に勝利へと導くのだろう。確かにやや地味ではあるが、連続試合出場とともに、松井の丹念な活躍は新たなヒーロー像をニューヨークに築き上げるかもしれない。チャンスに強く、安定感があり、タフ。チームを勝利に導くことができる選手だ。
シーズンは間もなく開幕する。そのとき、確実に東から日は昇る。ニューヨーカーが松井の存在に胸を撫で下ろす季節の開始まで、もうあとわずかだ。
2006年の松井秀喜は、開幕が近づくにつれて当然のように調子を上げて来ている。
左ひざの腫れでオープン戦開始当初はDHで出場し、コンディション面でやや心配された時期もあった。だが、3月18日には今春2本目の本塁打を放つなど、調整はここにきてすこぶる順調だ。
ワールドチャンピオン奪回が至上命令の今季に向け、チーム内で最も安定した打者の存在は、ヤンキースにとっても心強い限りだろう。現段階では今季の打順は未定のようだが、ドン・マッティングリー打撃コーチも松井に関しては何の心配もしておらず、全幅の信頼を寄せたコメントを残している。
「マツイは常に安定しているね。ボールもよく見えている。彼は自分の立てたプランから大きく外れることは決してない」
「安定」という言葉はマツイのためにある
この「安定」とは、松井のためにあるような言葉だ。毎年確実に打率を上昇させ、3年連続で100打点以上を記録してきた。クリーンアップにもほぼ定着し、常に的確な貢献を続けている。4年目を迎えた松井にとって、「スター軍団・ヤンキースの主力選手」としての地位や名声も、すでに安定したものとなっているのだ。
もっとも、そんな松井の活躍が地元ニューヨークでは、まるでニュースになっていないと聞けば、多くの日本人ファンは驚くかもしれない。
実際、昨秋に契約延長が成立して以降、ニューヨークメディアの間で松井の名が登場することなど皆無だった。今春の調整具合も、地元ではほとんど報道されていない。オープン戦での2本塁打も『ニューヨーク・タイムズ』紙などで数行の記事が載った程度。唯一騒がれたのは「ワールドベースボールクラシック(WBC)」への不参加だけ。それ以外では、ヤンキースの松井にまつわるエピソードやコラムなど、今はほかのどのニュースを探してもなかなか見つからないのが現状だ。
こういった状況は、1、2年目の「ゴジラ」の露出の多さを思うとやや寂しい気もする。
地元メディアの“松井無関心”はいい兆候
しかし、この地元メディアにおける「松井不在」についても、悪く考える必要はまったくなさそうだ。
筆者はここ数日間、米プロバスケットボール協会(NBA)やボクシングなどの取材現場で、“AP通信”や“ブロンクス・タイムズ紙”といった媒体のニューヨーク在住記者たちと話す機会があった。そこで野球の取材も行っている彼らに、今の松井の率直な「ニュース価値」を尋ねてみた。すると、以下のような言葉が次々と返ってきたのだ。
「松井のように常にハイレベルで安定してしまっている選手は、もうネタにはなりにくいのさ。もちろん、それは尊敬の裏返しでもあるんだけどね」
「3割前後の打率、30本前後のホームラン、そして100打点以上といった成績は今季も間違いなく残すだろう。そうやって好成績があまりに簡単に予測できる選手の記事は、逆に書くのが難しいんだよ」
彼らのこういった言葉は、すべてのメディアやファンの気持ちを分かりやすく代弁しているとも言える。これは悪く考えるどころではない。泣く子も黙る名物オーナー、ジョージ・スタインブレナー氏の率いるヤンキースにおいても、これ程までに絶対の信頼を受ける選手はまれな存在だからだ。
毎年、鳴り物入りの怪物たちがニューヨークには何人もやって来る。特にヤンキースはデレック・ジーター、ポール・オニール、ティノ・マルティネスらを擁する黄金期が去って以来、数多くの金の卵を世界中からかき集める方針を取って来た。
近年ではまれなニューヨークの成功例として
だが、プレッシャーも段違いのこの街では、スタープレーヤーの誰もが成功できるわけではない。いや、むしろ失敗例の方が断然に多いくらいだ。
かつての豪快さを失くしたジェイソン・ジアンビー。ニューヨークでは何もできないままひっそりと引退したケビン・ブラウン。シカゴ(ホワイトソックス)で自由を得るまでは、束縛された子どものようだったホセ・コントレラス。MVPを取っても勝負弱さの方が先に頭に浮かぶアレックス・ロドリゲス。そして昨季、新たな失敗例に挙げられたランディー・ジョンソン。
しかしそんな中で、松井ほど順調にヤンキースでの3年間を過ごした選手も珍しいだろう。近年では、ほとんど唯一のニューヨークの成功例だ。淡々と黙々と、曇りのない活躍を続けている。そして4年目の開幕を直前に控えた段階で、「3割30本は当然の打者」とまで呼ばれ、静かな尊敬を集めているのだ。
今季こそ王座奪回に燃えるヤンキースは、再び世界規模の注目を浴びている。だが、新加入のジョニー・デイモンらに比べ、松井がそれほど大きなスポットライトの下に立つことはないかもしれない。
松井はただ懸命に努力し、当たり前のように順調に調整し、開幕にも万全で臨むのだろう。絶対的な信頼感の中で当然のように打ち始め、チームを確実に勝利へと導くのだろう。確かにやや地味ではあるが、連続試合出場とともに、松井の丹念な活躍は新たなヒーロー像をニューヨークに築き上げるかもしれない。チャンスに強く、安定感があり、タフ。チームを勝利に導くことができる選手だ。
シーズンは間もなく開幕する。そのとき、確実に東から日は昇る。ニューヨーカーが松井の存在に胸を撫で下ろす季節の開始まで、もうあとわずかだ。