いよいよオープン戦も開幕し、スプリング・トレーニング真っ直中のメジャーリーグ。アスレチックスに移籍した松井秀喜選手のニュースは明るい話題が続いている。
その順調な調整ぶりを見ても、両ヒザの状態が昨年とは比較にならないぐらい良好であることは一目瞭然だ。
報道によれば松井がキャンプ初日からフルメニューを消化したのは実に4年ぶりのこと。「ヒザの感じを比較すれば去年よりいい。(ヒザを)意識する割合も減っている気がする」。言葉自体は控えめだが、松井自身の中でヒザへの不安が着実に解消されつつある。昨年のこの時期は守備へのこだわりを示す発言が多かった気がするが、今年はまったくといっていいほど聞こえてこないのも、ヒザの状態が良好だということの裏返しなのだろう。
このままの状態でキャンプを終えれば……。多くのファンが今季の松井にはかなり期待しているはず。
松井を獲得したアスレチックスにしても、今季に賭ける意気込みは相当なものだ。ポスティング制度による岩隈久志投手の獲得には失敗したものの、松井以外にも弱点箇所の戦力補強を着実に行なったというのは以前に紹介した通りだ。
成績が振るわない、アスレチックスの歴代指名打者。
しかし、である。今季、混戦必至が予想されるア・リーグ西地区をアスレチックスが制するためには、松井の活躍が相当の比重を占めているのも間違いないのである。
まずはこの表を見てほしい。2001年からアスレチックスの指名打者の年度別成績をまとめたものだ。
●アスレチックス 指名打者 年度別成績
シーズン |
選手(年齢) |
試合数 |
打率 |
本塁打 |
打点 |
OPS |
2001年 (地区2位) |
ジェレミー・ジアンビ (26) |
124 (8位) |
.283 (4位) |
12 (6位タイ) |
57 (7位) |
0.841 (4位) |
2002年 (同1位) |
レイ・ダーラム (30) |
54 (10位) |
.274 (4位) |
6 (9位タイ) |
22 (10位) |
0.806 (4位) |
2003年 (同1位) |
エルビエル・デュランゾ (29) |
154 (3位タイ) |
.259 (4位) |
21 (3位タイ) |
77 (4位) |
0.804 (3位) |
2004年 (同2位) |
エルビエル・デュランゾ (30) |
142 (5位) |
.321 (1位) |
22 (3位タイ) |
88 (1位) |
0.919 (1位) |
2005年 (同2位) |
スコット・ハッテバーグ (35) |
134 (4位) |
.256 (9位) |
7 (9位) |
59 (4位) |
0.677 (8位) |
2006年 (同1位) |
フランク・トーマス (38) |
137 (3位タイ) |
.270 (4位) |
39 (1位) |
114 (1位) |
0.926 (1位) |
2007年 (同3位) |
マイク・ピアザ (38) |
83 (7位) |
.275 (4位) |
8 (7位タイ) |
44 (7位) |
0.727 (7位) |
2008年 (同3位) |
フランク・トーマス (40) |
55 (10位) |
.263 (3位) |
5 (7位) |
19 (10位) |
0.751 (2位) |
2009年 (同4位) |
ジャック・カスト (30) |
149 (1位) |
.240 (9位) |
25 (1位) |
70 (2位) |
0.773 (3位) |
2010年 (同2位) |
ジャック・カスト (31) |
112 (8位) |
.272 (5位) |
13 (2位タイ) |
52 (4位タイ) |
0.834 (1位) |
まず真っ先に気づくのは、本来なら“打撃の職人”であるべき指名打者という割には、2006年のフランク・トーマス以外、見栄えのしない成績だということ。それはリーグを代表する指名打者、デビッド・オルティスの年度別成績と比較すればより明白だ。
●デビッド・オルティス 年度別成績
シーズン |
試合数 |
打率 |
本塁打 |
打点 |
OPS |
2001年 |
89 |
.234 |
18 |
48 |
0.799 |
2002年 |
125 |
.272 |
20 |
75 |
0.839 |
2003年 |
128 |
.288 |
31 |
101 |
0.961 |
2004年 |
150 |
.301 |
41 |
139 |
0.983 |
2005年 |
159 |
.300 |
47 |
148 |
1.001 |
2006年 |
151 |
.287 |
54 |
137 |
1.049 |
2007年 |
149 |
.332 |
35 |
117 |
1.066 |
2008年 |
109 |
.264 |
23 |
89 |
0.877 |
2009年 |
150 |
.238 |
28 |
99 |
0.794 |
2010年 |
145 |
.270 |
32 |
102 |
0.899 |
特に本塁打や打点の違いをみればわかるように、主軸打者として打線の要になる存在が指名打者であるべきだ。しかしながら、アスレチックスは過去10年間、決して指名打者に恵まれているとは言えなかった。
それでも2000年から2003年までの4年間で3度の地区優勝を飾る実力を誇っていた。当時はティム・ハドソン、バリー・ジト、マーク・マドラーという若手先発陣が台頭し、投手陣が充実していたのも要因の1つ。そして、確固たる指名打者が存在しなくともジェイソン・ジアンビ、ミゲル・テハダ、エリック・チャベスという主軸打者が揃っていたからだ。
だが、2002年にジアンビ、そして2004年にテハダが移籍し、さらにチャベスも2006年以降故障が続き出場数が激減し、昨季には引退している(今季、突然ヤンキースとのマイナー契約を結んだが、一線に戻るのは難しいだろう)。
改めて【表1】を見てほしい。各成績に括弧で記されているのは、各ポジション別にチーム内で出場数が最も多かった選手10人の中での順位を示したものである。ジアンビ、テハダが抜けた2004年以降、2006年のトーマスや出場数の少ない選手を除いた指名打者の成績自体は大差はないのに、平均的にランク順位が上昇しているのがわかる。
例えば2001年のジェレミー・ジアンビは57打点でチーム7位だったのに、2005年のハッテバーグは59打点で4位にランク。また2004年のデュランゾや2009年のカストは、本塁打、打点ともにずば抜けた成績ではないにもかかわらずチーム上位にランクされているのだ。
松井のケガがなく最低ノルマさえクリアできれば……。
この数字が意味することは至って明快だ。かつての主軸打者が抜けてからというもの、世代交代が円滑に進まず彼らの穴を埋めることができていないということである。
このことは、そのまま打線内での指名打者への負担増にもつながっているのだ。2004年以降で見ると、指名打者が活躍した2006年しか地区優勝ができていない。これを単なる偶然と片づけるアナリストは存在しないだろう。
昨季のチーム防御率リーグ1位が示すように、投手陣に関しては新世代の台頭で地区内はおろかリーグ屈指の陣容を揃えている。5年ぶりの地区優勝のカギを握るのは良くも悪くも打線の出来次第なのだ。長打力補強のため松井以外にもジョシュ・ウィリンハムを獲得したが、シーズン自己最多は26本塁打(2006年)、89打点(2007年)に留まっており、主軸打者というにはもう一つ物足りなさが残る。
結論はたった1つ。アスレチックスが地区優勝を狙うには、松井がシーズンを通してケガなく出場し続けるしかない。そして数字的にも30本塁打、100打点が最低ノルマになってくるだろう。
もちろんこれまでの実績を考えれば、両ヒザさえ問題なければ十分にクリアできるはず。そしてそれを達成した暁には、日本の紙面を“松井復活!”というニュースで賑わすことになるはずだ。