Number Web MLB東奔西走
2011/08/21
メジャー選手を悩ませる人間関係。松井秀喜復活の理由は監督の更迭?
“メジャーリーグは実力の世界である”
メジャーに限らずプロスポーツの世界にある金科玉条ともいえる大命題である。いうまでもなく実力のないものたちは自然淘汰されてしまう。
だが今シーズンの松井秀喜選手を見ていて、自分の中で前から感じていた1つの疑問が再び大きくなってきている。
“メジャーリーグは実力があれば必ず生き残れるのか?”
ここに来てアスレチックスが松井をウェーバーにかけたということを米記者が明らかにし、一気にトレード報道で賑わっている。だが、その少し前には松井の来シーズン残留を報じるメディアもちらほら現れていた。それもこれもオールスター戦以降メジャー最高の打率.400(8月15日現在)を記録するなど、絶好調の松井だからこそのニュースだと言える。
かつて松井の月間打率について考察したことがある。そこでわかったのが、通算月間打率の上位が7月(.315)と9~10月(.300)というふたつの時期であるということ。つまり、シーズン後半戦に強い打者だというのは明らかなのだ。
窓際選手から主要選手への劇的な変化のワケ。
だが今シーズンの松井を語る上で最も重要な出来事は、6月9日に起こった“環境の変化”だった。
そう、ボブ・ゲレン監督の解任とボブ・メルビン監督代行の就任が発表された日だ。
ゲレン前監督下での松井の成績は惨憺たるものだった。打率.209、3本塁打、20打点、さらに出塁率.260で長打率も.316に留まっていた。シーズン開幕当初は左先発投手の時にスタメンから外れていたが、徐々に右投手でも外れるようになり、6月8日までの63試合で49試合しか出場していなかった。一時は解雇話も囁かれるなど、引退秒読みのベテラン“窓際族”選手になっていた。
ところがメルビン監督代行の登場で状況は一変。主軸打者として57試合中54試合に出場し、故障選手の兼ね合いもあり指名打者どころか外野手としてもたびたび出場する機会を得るまでになった。あのままゲレン前監督が指揮をとっていたならば、現在の松井の快進撃はあり得なかっただろう。
「人間ですからね。誰でも期待をかけられれば嬉しい。後はそれに応えるだけですよ」(6月10日)
「試合に出ることが当たり前だった日常に戻った」(8月5日)
日本の各メディアで紹介されている松井のコメントを見ても、復活の理由は一目瞭然だ。
その起用法から期待されているのを感じ取れば自然と選手のモチベーションは上がってくるものだし、毎試合のように出場している選手ならば同じ状況に置かれた方が調整しやすいのは当たり前のこと。起用法という“環境の変化”が松井をよみがえらせたのであることは間違いない。
選手生命を左右するGMの思惑と選手データ。
試合の指揮権を握るのは監督だが、選手に留まらず監督、コーチを含めた現場の人事権を掌握しているのはジェネラル・マネージャー(GM)だ。
オフに戦力を揃える際、どのGMも自分が選んだ監督が戦力とみなし、采配しやすい選手を集めようと努力する。だが感情、性格が違う人間を相手にしているだけに、そう簡単にはGMの思うようにことが進まないものだ。そして今回も辣腕のビリー・ビーンGMの思惑通りにいかず、ゲレン前監督も松井という選手の能力をうまく引き出すことができなかった。
前述通りゲレン前監督は左先発投手の際に松井のスタメン起用を頑なに拒んでいたが、メルビン監督代行は過去のデータを参考に左右関係なく松井を使った。
これまでメジャー通算で、対右投手打率は.288に対し、対左投手打率は.286とまったく遜色ない。さらに今シーズンだけに限れば対左投手打率(.279)が対右投手打率(.257)を上回っているのだ。メルビン監督代行の判断が正しかったというのは、松井の成績が証明している。
福留や上原も監督から冷遇されて苦労していた。
こういった現象は松井に限ったことではない。
まさに同様なパターンが福留孝介選手だ。カブス1年目で対左先発投手打率(.248)が低かったということが理由で、当時のルー・ピネラ監督が左先発投手でのスタメン起用を減らす采配をとって以降、カブスではずっとその状態に置かれていた。
しかし、インディアンズにトレードされてからはマニー・アクタ監督の方針で松井同様に左右関係なくほぼ毎試合スタメン起用されるようになった。そしてここ10試合は、打率.302を残すほどに調子を上げ、今では対左投手打率(.293)が対右打者打率(.267)を上回るほどとなった。
上原浩治投手も例外ではない。
度重なる故障を克服した本人の努力もさることながら、やはり一つの転機があったと考えていい。昨シーズン故障から復帰したばかりの頃、ホワン・サムエル監督代行は上原を敗戦試合でしか起用しなかった。しかし、シーズン途中で就任したバック・ショーウォルター監督は勝ち試合のセットアップ、さらに抑えと徐々に配置転換を行なった。それが現在の上原へと繋がっているのは確かだろう。
日本人選手を中心に取材している立場からここでは日本人選手の例しか挙げていないが、似たようなケースは山ほど存在している。
メジャー成功の秘訣は監督との人間関係にあり!?
だが多くのメディアやファンはそうした実情を理解することなく、彼らの成績だけを指標とし若い選手には「実力不足」の烙印を押し、ベテラン選手に対しては「引退間近」と見なそうとする。
しかし、実際は監督の采配を超えたチームの看板選手(例えばイチロー選手がそうだろう)を除けば、自分の実力を発揮できない環境に置かれ、苦闘しながら消えていく選手たちは決して少なくない。
今シーズンの松井に関していうと、“監督の裁量”という人間臭い部分が選手の成績、さらに彼らの将来にまで影響していたとハッキリ断言できるケースとなっていた。実力社会のメジャーとはいえ、上司によって働く場が一変してしまう一般サラリーマンと似た悲哀を味わうこともあるということか。
メジャーに限らずプロスポーツの世界にある金科玉条ともいえる大命題である。いうまでもなく実力のないものたちは自然淘汰されてしまう。
だが今シーズンの松井秀喜選手を見ていて、自分の中で前から感じていた1つの疑問が再び大きくなってきている。
“メジャーリーグは実力があれば必ず生き残れるのか?”
ここに来てアスレチックスが松井をウェーバーにかけたということを米記者が明らかにし、一気にトレード報道で賑わっている。だが、その少し前には松井の来シーズン残留を報じるメディアもちらほら現れていた。それもこれもオールスター戦以降メジャー最高の打率.400(8月15日現在)を記録するなど、絶好調の松井だからこそのニュースだと言える。
かつて松井の月間打率について考察したことがある。そこでわかったのが、通算月間打率の上位が7月(.315)と9~10月(.300)というふたつの時期であるということ。つまり、シーズン後半戦に強い打者だというのは明らかなのだ。
窓際選手から主要選手への劇的な変化のワケ。
だが今シーズンの松井を語る上で最も重要な出来事は、6月9日に起こった“環境の変化”だった。
そう、ボブ・ゲレン監督の解任とボブ・メルビン監督代行の就任が発表された日だ。
ゲレン前監督下での松井の成績は惨憺たるものだった。打率.209、3本塁打、20打点、さらに出塁率.260で長打率も.316に留まっていた。シーズン開幕当初は左先発投手の時にスタメンから外れていたが、徐々に右投手でも外れるようになり、6月8日までの63試合で49試合しか出場していなかった。一時は解雇話も囁かれるなど、引退秒読みのベテラン“窓際族”選手になっていた。
ところがメルビン監督代行の登場で状況は一変。主軸打者として57試合中54試合に出場し、故障選手の兼ね合いもあり指名打者どころか外野手としてもたびたび出場する機会を得るまでになった。あのままゲレン前監督が指揮をとっていたならば、現在の松井の快進撃はあり得なかっただろう。
「人間ですからね。誰でも期待をかけられれば嬉しい。後はそれに応えるだけですよ」(6月10日)
「試合に出ることが当たり前だった日常に戻った」(8月5日)
日本の各メディアで紹介されている松井のコメントを見ても、復活の理由は一目瞭然だ。
その起用法から期待されているのを感じ取れば自然と選手のモチベーションは上がってくるものだし、毎試合のように出場している選手ならば同じ状況に置かれた方が調整しやすいのは当たり前のこと。起用法という“環境の変化”が松井をよみがえらせたのであることは間違いない。
選手生命を左右するGMの思惑と選手データ。
試合の指揮権を握るのは監督だが、選手に留まらず監督、コーチを含めた現場の人事権を掌握しているのはジェネラル・マネージャー(GM)だ。
オフに戦力を揃える際、どのGMも自分が選んだ監督が戦力とみなし、采配しやすい選手を集めようと努力する。だが感情、性格が違う人間を相手にしているだけに、そう簡単にはGMの思うようにことが進まないものだ。そして今回も辣腕のビリー・ビーンGMの思惑通りにいかず、ゲレン前監督も松井という選手の能力をうまく引き出すことができなかった。
前述通りゲレン前監督は左先発投手の際に松井のスタメン起用を頑なに拒んでいたが、メルビン監督代行は過去のデータを参考に左右関係なく松井を使った。
これまでメジャー通算で、対右投手打率は.288に対し、対左投手打率は.286とまったく遜色ない。さらに今シーズンだけに限れば対左投手打率(.279)が対右投手打率(.257)を上回っているのだ。メルビン監督代行の判断が正しかったというのは、松井の成績が証明している。
福留や上原も監督から冷遇されて苦労していた。
こういった現象は松井に限ったことではない。
まさに同様なパターンが福留孝介選手だ。カブス1年目で対左先発投手打率(.248)が低かったということが理由で、当時のルー・ピネラ監督が左先発投手でのスタメン起用を減らす采配をとって以降、カブスではずっとその状態に置かれていた。
しかし、インディアンズにトレードされてからはマニー・アクタ監督の方針で松井同様に左右関係なくほぼ毎試合スタメン起用されるようになった。そしてここ10試合は、打率.302を残すほどに調子を上げ、今では対左投手打率(.293)が対右打者打率(.267)を上回るほどとなった。
上原浩治投手も例外ではない。
度重なる故障を克服した本人の努力もさることながら、やはり一つの転機があったと考えていい。昨シーズン故障から復帰したばかりの頃、ホワン・サムエル監督代行は上原を敗戦試合でしか起用しなかった。しかし、シーズン途中で就任したバック・ショーウォルター監督は勝ち試合のセットアップ、さらに抑えと徐々に配置転換を行なった。それが現在の上原へと繋がっているのは確かだろう。
日本人選手を中心に取材している立場からここでは日本人選手の例しか挙げていないが、似たようなケースは山ほど存在している。
メジャー成功の秘訣は監督との人間関係にあり!?
だが多くのメディアやファンはそうした実情を理解することなく、彼らの成績だけを指標とし若い選手には「実力不足」の烙印を押し、ベテラン選手に対しては「引退間近」と見なそうとする。
しかし、実際は監督の采配を超えたチームの看板選手(例えばイチロー選手がそうだろう)を除けば、自分の実力を発揮できない環境に置かれ、苦闘しながら消えていく選手たちは決して少なくない。
今シーズンの松井に関していうと、“監督の裁量”という人間臭い部分が選手の成績、さらに彼らの将来にまで影響していたとハッキリ断言できるケースとなっていた。実力社会のメジャーとはいえ、上司によって働く場が一変してしまう一般サラリーマンと似た悲哀を味わうこともあるということか。