Matsui's Space 松井秀喜ファンサイト

Columnコラム

スポーツナビ 畑中久司 2009/08/25
宿敵との3連戦で際立った松井秀の存在感 レッドソックスvs.ヤンキース総括
ジラルディ監督が見せた自信

 1カ月前に今のアメリカンリーグ東地区がこんな状態になっていると予想できた人はいただろうか。7月20日(現地時間)、ヤンキースはオリオールズに勝ち、地区首位のレッドソックスにようやく追いついた。しかし、翌日単独首位に立つと、1カ月で6.5ゲーム差まで開いていた。

 8月15日に1日だけ点灯していたマジックが、このカードで1試合でも勝てば再点灯する。今回のボストン3連戦はすでに「首位攻防戦」ではなくなっていた。

 「ほかのチームに頼る必要はない。直接リードを広げられる絶好のチャンスがきた」

 初戦を控えたジラルディ監督は言った。ヤンキースとしては3連敗さえしなければ十分だったはずだ。それでも指揮官が強気でいられるのは、現在のチーム力に自信を持っているからにほかならない。

 8月に入って貯金11。投打を問わず日替わりヒーローが誕生する中、この3連戦でもっとも存在感を示したのは松井秀喜だった。

1試合2本塁打を2度記録した松井秀

 第1戦
 5回の右越え20号3ランに続き、9回にも右翼ポール際21号3ラン。内野ゴロでも打点を稼いでおり、1試合7打点。ヤンキースの選手がフェンウェイ・パークで1試合7打点以上を挙げたのは、1930年のルー・ゲーリック(8打点)以来2人目だった。

 第3戦
 2回に右越え22号ソロを放つと、8回には右翼ポール際に23号ソロ。1954年以来、フェンウェイ・パークでの1カードで2度、1試合2本塁打を記録したヤンキースの選手は松井で4人目。残り3人には1966年のミッキー・マントルも含まれている。

 「甘いボールをしっかり打てている」

 松井はいつものせりふで振り返るが、この4発はまさに真骨頂。相手投手ががストライクを取りに来たところをはじき返している。「打ち損じない確率」が高くなっているのは、状態がいい証拠だ。シアトルで左ひざにたまった水を抜く処置を施して体にキレが戻ったことも大きな要因で、ロング打撃コーチも「スイングスピードが速くなった」と証言している。

 気になるのは、宿敵相手の4発が松井の来季にどの程度影響するか。第3戦が終わって取材に向かう際、地元メディア最古参の某記者にこう聞いてみた。
 「これでマツイは来年もヤンキーじゃないの?」
 その答えはこうだった。
 「じゃあ賭けるか? オレはノーだ」

 ヤンキース残留かどうかは、あくまでもチームの戦略や構想という外的要因に左右される。タイトル獲得などよほどのことがない限り「何本打てば」のような絶対値は存在しない。ただ、この結果がすべての球団に対して強いインパクトをもたらしたのは間違いないだろう。

バーネットとポサダの相性に不安も

 カードを2勝1敗とし、地区優勝へのマジックは32となった。公式戦では死角らしい死角が見当たらない。ところが、ポストシーズンを戦う上で不安材料になりそうな出来事が、田沢純一に封じられた第2戦で起こった。

 7点をリードされた5回二死。先発A・J・バーネットは、デービッド・オルティーズに投じた外角の速球を左翼席に軽々と運ばれた。その直後、ホームに背を向ける格好で両手を広げ「Why!?」と何度も絶叫した。捕手ホルヘ・ポサダのリードと関係がある――。試合後の2人とジラルディ監督への質問は、ほぼこの一点に集中した。

 「彼(ポサダ)に向けてやったんじゃない。自分の思うようなボールを投げられなかったんだ」

 自らの制球難に腹を立てていたと主張するバーネットに対し、ポサダはバッテリーの呼吸に問題があったと認めている。

 「(打たれた直後の)あの姿には動揺させられた。きょうは同じページにいなかった。合うときと合わないときがある」

 この2人は前半戦から相性の悪さを指摘されてきた。6月20日以降、この試合までで10試合コンビを組んでクオリティ・スタート(6回3失点以内の内容)を9度決めている。とはいえ、8月17日のアスレチックス戦では先制された直後にボークで追加点を許すなど、不用意な失点も目立つ。8月に勝ち星がない事実も、バーネットが欲求不満を募らせる原因になっているようにも見える。

 1試合が「162分の1」という公式戦と違い、ポストシーズンは1試合で流れが大きく変わる。大事な試合で再現がないことを祈るしかない。

 「まだ先は長い。前に進めるようにプッシュしていくだけだ」

 ジラルディ監督はそう言って気を引き締めた。半面、ポストシーズンを見据えた言葉も口にしている。

 「ホームアドバンテージは重要。ウチは本拠地で大きく勝てているから」

 15本塁打以上の選手8人。ヤンキー・スタジアムがフライ打ち打者の多いチームを優位に導くのは疑う余地がない。レッドソックスの位置は、もう視界にはない。狙うはリーグ最多勝利。3連戦を終えた時点で、勝利数2位エンゼルスとの差は4勝だ。
スポーツナビ 畑中久司 2009/08/14
松井秀喜、メジャー7年目の役回り 4年契約最終年の立場と役割とは!?
DH専門の役回り

 ロッカーのイスに腰掛けた松井秀喜が週刊誌を開いている。練習後のクラブハウスでよく見かける光景だ。リラックス方法のひとつだが、今年は頻度が多くなった印象がある。スタメン表に名前がなければ、試合開始からモチベーションを最高の状態に上げる必要はない。リラックスタイムもその分だけ長くなるといったところだろうか。

 今季、松井はスタメン出場の機会がめっきり減った。約7割はスタメンでの出番があるとはいっても、松井をメジャー1年目からカバーしている筆者には相当少なく感じてしまう。全試合に出場することが当たり前で、代打出場それ自体が記事になっていたころが懐かしい。

 「試合にはいつも出たいと思っている。選手とはそういうもの」

 松井の思いは常に同じだ。2試合連続本塁打を放ちながらスタメンから外れた7月6日(現地時間)のブルージェイズ戦では、自分の名前がないオーダー表を見て驚きを隠せなかった。しかし、チームの方針に口を出すつもりはない。どういう布陣で臨めばチームのプラスになるか、それは監督をはじめとした首脳陣が考えること。選手として考えるべきは、与えられた場で自分の持つ100%の力をどう出すか。

「(首脳陣は)チームの全体的なことを考えてオーダーを組む。自分は試合に出たときにしっかりプレーできるような準備をしていくだけ」

 松井がそう言う以外にないのは、当然といえば当然だろう。

 DH専門の役回りは、昨年9月に手術した左ひざの状態を考慮されて導き出されたものだ。後半戦に入った時点でも、ジラルディ監督は「ヒザの状態はまだ懸案事項」と明かしている。そういった首脳陣の判断に、松井の出場機会は制限されてきた。

 レギュラークラスの野手が軒並み30代のヤンキースには、それぞれの選手に休養を与える必要がある。使えるカードは「スタメンから外れる」か「DH起用での“半休養”」。ヤンキースにとってのDHは「打撃専門家のポジション」よりも「半休養を取る選手ためのポジション」であった方が好都合なのだ。松井が来季はヤンキースに残留しないという地元紙の記事は、この点が唯一ともいえる根拠となっている。

 出場機会が限られている今季、本塁打や打点といった絶対値で計られる成績が低くなっているのは仕方がない。だからといって「2年目のように出場し続けていれば……」といった仮定は空想でしかない。

 少なくとも、ヤンキース首脳陣の考えはこうだ。

「本人が休みたくなくても、休養は松井の体調にいい影響を与えていると思う。9試合休んだ後、松井は爆発した。あれからずっといい状態が続いている」

 2試合連続でスタメンから外れた10日のブルージェイズ戦。試合前の会見でジラルディ監督はそう話した。

「メジャーリーガー松井秀喜」の評価

 監督の指す9試合とは6月末の敵地での交流戦。DH制がないため、松井は全試合でベンチスタートとなった。その後、本拠地での7試合で18打数9安打3本塁打と打ちまくった。あらためて調べてみると、今季の松井は“スタメン復帰”した22試合で6本塁打を記録している(11日終了時点)。中でも7月以降に打った7本塁打のうち、4本は休み明けでのものだ。となれば、ジラルディ監督の言葉には説得力があるように思える。

 代打でも今季は18打数6安打で出塁率4割7分8厘。昨季までは通算で9打数2安打だった。ベンチスタートでも終盤に代打で出場するための流れにも慣れてきたようだ。
「今年はこういう感じが多いから、気にならない」と松井は言う。首脳陣にとっても、与えた持ち場で期待に応えられる選手は、使い勝手のいい“駒”として重宝する存在だ。A・ロッドやジーターだけではなく、全軍躍動のためにはロールプレーヤーも必要なのだ。指揮官が「松井は必要な存在」と言い続けるのには、こういった意味もある。

 ただし、松井という駒には「守備」という役割がない。練習中にはノックを受け、勘が鈍らないようにはしている。それでも、今季中に首脳陣が松井を守備に就かせようと本気で思ったことはないはずだ。ヒンスキー、ヘアーストンと外野を守れる選手を続々と補強した。

「守れと言われれば今でもやれるとは思う。でも、守れって言われないから」

 打つだけの選手が松井の描く理想の選手像ではない。いまでも常に守備への意欲を見せ続けている。半面、ジラルディ監督は「リスクを負う価値があるとは思わない」と否定的だ。準備は怠らないが、今季中に守備に就く姿を見ることは現実的ではないだろう。

 今季でヤンキースとの4年契約が切れる。守備に就かないことは「メジャーリーガー松井秀喜」の評価に大きく影響するとみて間違いない。もう少し早く左ひざにメスを入れておけば、違う結果になっただろうか……。それもまた空想でしかないのだが。

 来季に関しては「まだ考えてない」と言う。何かを成し遂げようとしている最中に、その先のことを考えるのはナンセンス。そんな気持ちは伝わってくる。7年前、メジャー移籍を決断したのもシーズンが終わってからだった。

 ヤンキースにこれほどの強さを感じるのは2003年以来かもしれない。久々に狙えるチャンスがやってきたと思う。そして立場も役割も7年前とは違う松井が目の前にいる。シーズンは残り50試合を切った。