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Columnコラム

NHKスポーツオンライン 高橋洋一郎 2012/10/09
ポストシーズン 松井秀喜
現地10月3日、シーズン最終戦。
ニューヨーク・ヤンキースは地元ニューヨークでの対ボストン・レッドソックス戦に勝ち、地区優勝を決めた。
9月に入ってからは2位のボルティモア・オリオールズに背後ピタリとつけられた。
「この試合負けると…」の連続、大きなプレッシャーのなか、ついに成し遂げた地区優勝だった。

試合終了の瞬間、グラウンドに広がる歓喜の輪の中には二人の日本人選手の姿があった。
ワールドチャンピオンになるためにリーグを変え、地区を変え、今シーズンにすべてをかけ単年契約でこのチームにやってきた黒田投手。
「このチームの未来に、来年以降、僕がいるべきではないのではないか」
シーズン途中、ある意味みずからを『戦力外』とみなし、12年間プレーしたシアトル・マリナーズに別れを告げ、このチームにやってきたイチロー選手。
シーズン通じてエース級の活躍を見せ、この日の試合でもすばらしいピッチングを見せた黒田投手。
9月負けられない試合の続くなか、打撃でチームを引っ張ったイチロー選手。
彼ら二人がその歓喜の輪のど真ん中にいるのも不思議ではかなった。

同日、ダルビッシュ投手の所属するテキサス・レンジャーズ。 こちらは首位攻防戦となったオークランド・アスレティックスとの一戦に破れまさかの2位、ワイルドカードへの転落。
地区シリーズへと進むにはもう一つのワイルドカードチームであるボルティモア・オリオールズとの一発勝負に勝たなければならない羽目になってしまった。

「そんなに悲観することはない。まだ試合もありますし」
試合後のダルビッシュ投手はそうコメントするしかなかった。
2012年レギュラーシーズンが終了した。
最後の最後まで混とんとしたペナントレースはシーズン最終162試合目に、この二つのチームに両極端な結果を用意した…

「別に見てないよ」
残念ながらこの日のシーズン最終日を待たず、だいぶ前に今季を終えていた松井選手はシーズン終盤の熱い戦いについてこうそっけなく答えた。
以前も同じことを聞いたことがある。
みずからのチームが敗退してしまった後の勝負の行方について聞いた時だ。

「気にならないし、見ることもないと思う」

プレーオフ出場、その先にあるワールドチャンピオン。
それだけを目標にプレーしてきた選手にとって、そこにみずからがいないという現実は経過がどうであろうと受け入れ難いもの。そこに誰がいようと、どのチームがいようと、“自分ではない”のではまったく意味はないのだ。

「結果がすべて、経過なんて関係ない」

松井選手にとって今シーズンは結果的には何一つよいことのなかったシーズンと言ってもいいだろう。
シーズンの途中でユニフォームを脱いでからすでに二月以上が経った。

「何も変わってない」

みずからの進退に関して依然何も決まっていないし、決めてもいないとの状況に変わりはない。

「20年間この時期にはずっと野球だけやってきたわけだから、いろいろとほかにやることもある」

まだ、しばらくは野球をやらない野球選手でいるつもりだ。
「解説に興味は?」と問うと、「引退した身ではないから、まだそれはできない」ときっぱりとした答えが返ってきた。
やはり、何も決めていないわけではないらしい。

現地10月5日、レンジャーズはオリオールズに破れ、地区シリーズ進出の道を断たれた。
大一番でマウンドを任されたルーキー、ダルビッシュ投手の好投は報われず、そのシーズンはあまりにもあっけなく終了してしまった。

「へえ、そうなんだ…」

そっけのない声が聞こえてきそうである。