スポーツナビ 杉浦大介
2010/08/20
どん底から絶好調へ 存在感示す松井秀
勝利を導く逆転3点本塁打
エンゼルスの周囲に漂っていた重苦しい空気を、松井秀喜のバットが振り払った。
前日まで3連敗を喫し、8月19日(現地時間、以下同)のレッドソックス戦も0−1とリードされて迎えた6回表――。それまで2安打無失点と完ぺきな投球を続けていたジョシュ・ベケットに対し、3番打者アルベルト・カラスポがタイムリー二塁打を放ってエンゼルスは同点に追いつく。
さらに1死一、三塁とチャンスを広げて迎えた場面で、打席に立ったのは松井。ベケットが初球に投じた94マイル(約151キロ)の真っすぐを、ここ最近で急激に鋭さを増した松井のバットがとらえる。ライナー気味の打球は右中間のフェンスを軽々と越え、見事な逆転3点本塁打となった。
「今日の展開の中で非常にいいところで点が入ったと思います。いい仕事ができて良かったです」
松井本人も後にそう振り返った通り、球界を代表する投手から放ったまさに値千金の一打だった。続いて7回にもマニー・デルカーメンから押し出し四球を選び、この日は合計4打点。チームも6回以降は見違えるようなプレーをみせ、そのまま7−2で逃げ切った。昨日まで直接対決で9連敗を喫していた難敵に一矢を報い、エンゼルスはようやく一息をついたのである。
最悪の状態から一転し絶好調へ
松井のバットが火を噴く予感は、実は6回の打席を迎えるはるか以前からあった。14日のブルージェイズ戦では4打数4安打1本塁打と爆発するなど、過去4試合連続安打。その間の成績は14打数8安打2本塁打と、まるで昨年のあの伝説的なワールドシリーズを彷彿(ほうふつ)させるような数字を残して来た。
このわずか2週間ほど前、8月3日から5日にかけてオリオールズと対戦した際には、逆に松井の状態はほとんど最悪に思えた。そのシリーズ中は2試合に出場して8打数1安打3三振。視察に訪れていた某アメリカンリーグ強豪チームのスカウトに意見を求めても、松井への言葉は辛らつだった。
「体調不良か、年齢によるものか判断がつきかねるが、松井はインサイドの速球についていけなくなっている。本人もそれに気付いていて、チートする(始動を早める)ようなスイングが増えている。おかげで変化球にももろくなり、打撃自体が崩れてしまっているんだ」
しかし、そんなどん底の状態から短期間ではい上がり、突如として絶好調と言える打撃でみせてくれるのだから分からないものである。
前日の試合でも結果的には1安打に終わったが、8回にダニエル・バードと対峙(たいじ)した際の勝負は実に見応えがあった。若き豪腕が投じた100マイル(約161キロ)の豪速球をファウルでかわし、9球のバトルの末に四球を選んだ粘り腰は、ヒットを打った打席以上に好調を印象づけるものだったと言って良い。そして今夜の試合でも、本塁打にした球はスカウトが「さばけていない」と指摘したはずの「インサイドの直球」。負の流れは変わりつつある。良好なサインは、明白な形で随所に見えて来ているのだ。
それでも厳しい立場は変わらず
ただ、そうは言っても、松井がチーム内で依然として厳しい立場にいることに変わりはない。今夜の勝利の後でも、エンゼルスは首位レンジャーズに7ゲーム差。それでもプレーオフをあきらめない選手たちは、今日の試合前に首脳陣抜きのミーティングを開いた。直後の快勝につながり、松井も「今日は選手一人一人すごいエネルギーがあるような感じを受けました。(ミーティングは)効果はあったんじゃないかと思います」と目を細めていた。
しかし、残り試合が少なくなった今、1、2試合のスパークだけでなく、長いスパンの連勝がエンゼルスにはどうしても必要である。そしてもしそのラストスパートがかなわず、プレーオフ進出が絶望となってしまった場合、松井のようなベテランを起用し続ける意味はなくなる。8月最初の13試合中で5戦も欠場した事実は、「35歳の指名打者」の微妙な立場を象徴していると言って良いだろう。
「(松井は)勝負所で重要な役割を担うはず。私たちには彼の貢献が必要だ」
今日の試合後、マイク・ソーシア監督はそう語って松井の重要度を強調していた。実際に存在感がやや希薄になりかけたところで絶好調の時期に突入したことは、絶妙のタイミングではあった。だが、これを継続しなければ意味はない。猛然と打ち続けてチームを勝利に導かねければ、打席に立つ機会は減っていくだけなのだ。
今後、ソーシア監督の言及した「勝負所(down the stretch)」は、エンゼルスに本当に訪れるのかどうか。その大部分は松井のバットにもかかっている一方で、松井の出場機会はチームの浮沈次第でもある。
この微妙なバランスの中で、エンゼルスと松井の後のない戦いは続いていくことになりそうだ。
エンゼルスの周囲に漂っていた重苦しい空気を、松井秀喜のバットが振り払った。
前日まで3連敗を喫し、8月19日(現地時間、以下同)のレッドソックス戦も0−1とリードされて迎えた6回表――。それまで2安打無失点と完ぺきな投球を続けていたジョシュ・ベケットに対し、3番打者アルベルト・カラスポがタイムリー二塁打を放ってエンゼルスは同点に追いつく。
さらに1死一、三塁とチャンスを広げて迎えた場面で、打席に立ったのは松井。ベケットが初球に投じた94マイル(約151キロ)の真っすぐを、ここ最近で急激に鋭さを増した松井のバットがとらえる。ライナー気味の打球は右中間のフェンスを軽々と越え、見事な逆転3点本塁打となった。
「今日の展開の中で非常にいいところで点が入ったと思います。いい仕事ができて良かったです」
松井本人も後にそう振り返った通り、球界を代表する投手から放ったまさに値千金の一打だった。続いて7回にもマニー・デルカーメンから押し出し四球を選び、この日は合計4打点。チームも6回以降は見違えるようなプレーをみせ、そのまま7−2で逃げ切った。昨日まで直接対決で9連敗を喫していた難敵に一矢を報い、エンゼルスはようやく一息をついたのである。
最悪の状態から一転し絶好調へ
松井のバットが火を噴く予感は、実は6回の打席を迎えるはるか以前からあった。14日のブルージェイズ戦では4打数4安打1本塁打と爆発するなど、過去4試合連続安打。その間の成績は14打数8安打2本塁打と、まるで昨年のあの伝説的なワールドシリーズを彷彿(ほうふつ)させるような数字を残して来た。
このわずか2週間ほど前、8月3日から5日にかけてオリオールズと対戦した際には、逆に松井の状態はほとんど最悪に思えた。そのシリーズ中は2試合に出場して8打数1安打3三振。視察に訪れていた某アメリカンリーグ強豪チームのスカウトに意見を求めても、松井への言葉は辛らつだった。
「体調不良か、年齢によるものか判断がつきかねるが、松井はインサイドの速球についていけなくなっている。本人もそれに気付いていて、チートする(始動を早める)ようなスイングが増えている。おかげで変化球にももろくなり、打撃自体が崩れてしまっているんだ」
しかし、そんなどん底の状態から短期間ではい上がり、突如として絶好調と言える打撃でみせてくれるのだから分からないものである。
前日の試合でも結果的には1安打に終わったが、8回にダニエル・バードと対峙(たいじ)した際の勝負は実に見応えがあった。若き豪腕が投じた100マイル(約161キロ)の豪速球をファウルでかわし、9球のバトルの末に四球を選んだ粘り腰は、ヒットを打った打席以上に好調を印象づけるものだったと言って良い。そして今夜の試合でも、本塁打にした球はスカウトが「さばけていない」と指摘したはずの「インサイドの直球」。負の流れは変わりつつある。良好なサインは、明白な形で随所に見えて来ているのだ。
それでも厳しい立場は変わらず
ただ、そうは言っても、松井がチーム内で依然として厳しい立場にいることに変わりはない。今夜の勝利の後でも、エンゼルスは首位レンジャーズに7ゲーム差。それでもプレーオフをあきらめない選手たちは、今日の試合前に首脳陣抜きのミーティングを開いた。直後の快勝につながり、松井も「今日は選手一人一人すごいエネルギーがあるような感じを受けました。(ミーティングは)効果はあったんじゃないかと思います」と目を細めていた。
しかし、残り試合が少なくなった今、1、2試合のスパークだけでなく、長いスパンの連勝がエンゼルスにはどうしても必要である。そしてもしそのラストスパートがかなわず、プレーオフ進出が絶望となってしまった場合、松井のようなベテランを起用し続ける意味はなくなる。8月最初の13試合中で5戦も欠場した事実は、「35歳の指名打者」の微妙な立場を象徴していると言って良いだろう。
「(松井は)勝負所で重要な役割を担うはず。私たちには彼の貢献が必要だ」
今日の試合後、マイク・ソーシア監督はそう語って松井の重要度を強調していた。実際に存在感がやや希薄になりかけたところで絶好調の時期に突入したことは、絶妙のタイミングではあった。だが、これを継続しなければ意味はない。猛然と打ち続けてチームを勝利に導かねければ、打席に立つ機会は減っていくだけなのだ。
今後、ソーシア監督の言及した「勝負所(down the stretch)」は、エンゼルスに本当に訪れるのかどうか。その大部分は松井のバットにもかかっている一方で、松井の出場機会はチームの浮沈次第でもある。
この微妙なバランスの中で、エンゼルスと松井の後のない戦いは続いていくことになりそうだ。