スポーツナビ
2014/02/14
「松井秀喜×巨人」が生んだ化学反応 元巨人・橋本清のキャンプリポート
13日、巨人キャンプに臨時コーチとして参加していた松井秀喜氏が全日程を終えた。12年ぶりの日本のキャンプとなった松井氏だが、期間中は1軍、2軍を問わず精力的に動き回り、自ら打撃投手やノッカーを務めたほか、9日にはフリー打撃に登場。22スイング中5本をスタンドインさせ、変わらぬ打棒にファンだけでなく、選手も熱視線を注いだ。日本一奪回を目指す巨人に、松井氏が起こした化学反応とは? プロ野球解説者で、巨人時代の同僚だった橋本清氏に話を聞いた。
光った松井秀喜の存在感
――巨人キャンプを訪れた感想を教えてください。
「松井秀喜」という男の存在感が光っていましたね。今の選手たちが小学生、中学生のとき、現役バリバリで活躍する松井氏をテレビで見ていたでしょう。その松井氏が目の前にいて、一緒に練習できるのだから、気の張り方、緊張感というのは、これまでの巨人キャンプとは違いましたね。雰囲気も締まっていましたし、集中力が非常にありましたね。
――松井コーチの指導について、選手たちの感想は?
阿部(慎之助)選手は、アウトコースの球を逆方向に打つ際に、バットのヘッドがどんどん下がっていくことを気にしていたようです。そこで、今キャンプ、バットのヘッドを立たせるためにアウトコースの甘い球を右中間方向に引っ張るくらいの意識で振る練習をしていて、松井氏にこの取り組みについて話を聞いたそうです。すると、松井氏は「確かにそうだね」と返答したと言っていました。
また、村田(修一)選手はホームランバッターなりの感想を話していました。ホームランを打とうとすると、どうしてもすくい上げようとアッパースイングになりますが、松井氏から「現役時代、上からたたいて打球を上げるスイングをしていた」と言われて納得したそうです。
阿部選手や村田選手のようなレギュラー選手は、「松井秀喜というバッターはどういう感覚で、どういう考えで野球をやってきたかを感じたい」という視点で接していたようです。松井氏から特別何かを指導してもらうことを期待して接したのではなく、自分が心掛けてやっていることに対して、同意してくれたことによる納得感というか、やっていることの方向性が間違っていないという確認をしていたと思います。
一方で、若い選手たちは教えてもらうことをすぐに実践に移そうとしていました。レギュラー選手、若い選手とも、それぞれの視点で松井氏から何かを受け取ろうと真剣に練習に取り組んでいましたよ。
また、選手たちが共通して言っていたことですが、松井氏の指導は「シンプルで分かりやすい」そうです。だから、「非常に勉強になります」と口をそろえていました。
目の色が違った大田、松井氏「力は持っている」
――投手陣にも松井氏がコーチを務めてたことでの効果は感じられましたか?
菅野(智之)投手は、松井氏が打席に立っている中で投球していましたが、同僚の選手やコーチが打席に立つのとは違った緊張感の中で投球できたことはプラスだったと思いますよ。「気持ちの上でも(普段のブルペンと)違いました」と言っていました。投球に力みは感じましたが、気持ちも動きも活気を感じました。
――若手選手は松井コーチに声を掛けられたいと思って練習していたと思いますが、若手選手たちの反応はいかがだったでしょうか?
亀井(善行)選手や橋本到選手、大田(泰示)選手らからすれば、雲の上の存在ですから、声を掛けられたいという思いはあったと思いますよ。
松井氏も、ほかのコーチと同じことを言っていたと思いますが、やはりそこは重みが違いますよね。「松井秀喜」という人物の説得力、納得感によって、選手たちの理解力・吸収力が上がります。
例えば、私たち元プロ野球選手が少年野球の指導に行った時、普段、監督やコーチが言っているように基礎の大事さを話したとします。すると、少年たちの頭の中、心の中の残り方がまったく違うわけです。まさにそれと同じことが巨人の若い選手たちに起こっていると思います。集中力の違いを感じました。
――キャンプで目の色が違っていた、今季注目の選手は誰でしたか?
大田選手は違いましたね。体も昨年と比べて大きくなっていましたし、松井氏に声を掛けられて、的確に指導されたようです。松井氏も大田について「まだまだ体を生かしきれていないので、もったいないですね。力は持っていますが、まだ上半身だけで、下半身をしっかり使ったうえで、軸を回るバッティングを心掛けてほしいですね」と話をしていました。大田選手の強みを生かしたアドバイスだと思いましたね。
大田選手も「下半身を使った打撃を心掛けたい」と話していましたし、松井氏のアドバイスが心に染みたようでしたよ。大田選手は今季の目標として「レギュラーを取って、打率2割7分以上、本塁打10本以上を目指す」と言っていました。今季は期待したいですね。
充実の巨人キャンプ、松井氏が力を注入した
――9日にはフリー打撃を行い、22スイング中5本をスタンドインさせるなど、現役時代と変わらない打撃を見せてくれましたが。
阿部選手に話を聞きましたが、「練習もほとんどしていないのに、スタンドインするなど、振りが半端ないです」と驚いていました。前日には阿部選手のフリー打撃の打撃投手を松井氏が務めていたので、本人も9日に自分が投げることになって相当緊張しながら投げたようですよ。「緊張しました」と言っていました。
サンマリンスタジアムは広い(両翼100メートル、中堅122メートル)ので、現役選手でもなかなかスタンドインしませんよ。それを現役引退して1年経った松井氏がいとも簡単にスタンドに放り込むなんて、本当にすごいですね。4本に1本ホームランの計算ですし、やはり“格”が違いますね。
――実際に巨人キャンプを見て、松井氏に臨時コーチを依頼した原辰徳監督の意図をどう感じましたか?
言葉だけでなく、実際に体で、スイングで示した方が若い選手の成長を促すだろうと思ったからだと思います。いまの若い選手たちは松井氏のスイングを生で見ていないでしょうし、見て触れていろいろ感じてほしいというような、いろいろな意味が込められていると思いますよ。
ただ、松井氏本人はファンサービスの一環という意味合いもあるかもしれませんが。
――日本一奪回を目指す巨人にとって、例年以上に充実したキャンプを送っていると考えていいでしょうか?
そうですね。質の高い、緊張感のあるキャンプを送っていると思いますよ。選手個々のモチベーション、緊張感が普段にないものを感じました。そのことについて、阿部選手も「松井さんの存在感によって、良い緊張感・ムードで(普段と)違いますね」と話をしてくれました。
巨人が日本一を奪回するためには若い力が必要です。その意味で、松井氏が1軍、2軍を問わず、本当に精力的に見て回り、朝も早い時間から全体練習が終わった後の特打ちまでグラウンドにいることで、若い選手の個々のレベルアップを図ることができる、非常に良いキャンプになっていると思います。
総じて考えると、若い選手たちがイキイキしていましたね。巨人の後輩たちに打撃投手や視線を送りながら、力を注入している印象でした。松井氏が良い風を送っていたように思います。
<了>
光った松井秀喜の存在感
――巨人キャンプを訪れた感想を教えてください。
「松井秀喜」という男の存在感が光っていましたね。今の選手たちが小学生、中学生のとき、現役バリバリで活躍する松井氏をテレビで見ていたでしょう。その松井氏が目の前にいて、一緒に練習できるのだから、気の張り方、緊張感というのは、これまでの巨人キャンプとは違いましたね。雰囲気も締まっていましたし、集中力が非常にありましたね。
――松井コーチの指導について、選手たちの感想は?
阿部(慎之助)選手は、アウトコースの球を逆方向に打つ際に、バットのヘッドがどんどん下がっていくことを気にしていたようです。そこで、今キャンプ、バットのヘッドを立たせるためにアウトコースの甘い球を右中間方向に引っ張るくらいの意識で振る練習をしていて、松井氏にこの取り組みについて話を聞いたそうです。すると、松井氏は「確かにそうだね」と返答したと言っていました。
また、村田(修一)選手はホームランバッターなりの感想を話していました。ホームランを打とうとすると、どうしてもすくい上げようとアッパースイングになりますが、松井氏から「現役時代、上からたたいて打球を上げるスイングをしていた」と言われて納得したそうです。
阿部選手や村田選手のようなレギュラー選手は、「松井秀喜というバッターはどういう感覚で、どういう考えで野球をやってきたかを感じたい」という視点で接していたようです。松井氏から特別何かを指導してもらうことを期待して接したのではなく、自分が心掛けてやっていることに対して、同意してくれたことによる納得感というか、やっていることの方向性が間違っていないという確認をしていたと思います。
一方で、若い選手たちは教えてもらうことをすぐに実践に移そうとしていました。レギュラー選手、若い選手とも、それぞれの視点で松井氏から何かを受け取ろうと真剣に練習に取り組んでいましたよ。
また、選手たちが共通して言っていたことですが、松井氏の指導は「シンプルで分かりやすい」そうです。だから、「非常に勉強になります」と口をそろえていました。
目の色が違った大田、松井氏「力は持っている」
――投手陣にも松井氏がコーチを務めてたことでの効果は感じられましたか?
菅野(智之)投手は、松井氏が打席に立っている中で投球していましたが、同僚の選手やコーチが打席に立つのとは違った緊張感の中で投球できたことはプラスだったと思いますよ。「気持ちの上でも(普段のブルペンと)違いました」と言っていました。投球に力みは感じましたが、気持ちも動きも活気を感じました。
――若手選手は松井コーチに声を掛けられたいと思って練習していたと思いますが、若手選手たちの反応はいかがだったでしょうか?
亀井(善行)選手や橋本到選手、大田(泰示)選手らからすれば、雲の上の存在ですから、声を掛けられたいという思いはあったと思いますよ。
松井氏も、ほかのコーチと同じことを言っていたと思いますが、やはりそこは重みが違いますよね。「松井秀喜」という人物の説得力、納得感によって、選手たちの理解力・吸収力が上がります。
例えば、私たち元プロ野球選手が少年野球の指導に行った時、普段、監督やコーチが言っているように基礎の大事さを話したとします。すると、少年たちの頭の中、心の中の残り方がまったく違うわけです。まさにそれと同じことが巨人の若い選手たちに起こっていると思います。集中力の違いを感じました。
――キャンプで目の色が違っていた、今季注目の選手は誰でしたか?
大田選手は違いましたね。体も昨年と比べて大きくなっていましたし、松井氏に声を掛けられて、的確に指導されたようです。松井氏も大田について「まだまだ体を生かしきれていないので、もったいないですね。力は持っていますが、まだ上半身だけで、下半身をしっかり使ったうえで、軸を回るバッティングを心掛けてほしいですね」と話をしていました。大田選手の強みを生かしたアドバイスだと思いましたね。
大田選手も「下半身を使った打撃を心掛けたい」と話していましたし、松井氏のアドバイスが心に染みたようでしたよ。大田選手は今季の目標として「レギュラーを取って、打率2割7分以上、本塁打10本以上を目指す」と言っていました。今季は期待したいですね。
充実の巨人キャンプ、松井氏が力を注入した
――9日にはフリー打撃を行い、22スイング中5本をスタンドインさせるなど、現役時代と変わらない打撃を見せてくれましたが。
阿部選手に話を聞きましたが、「練習もほとんどしていないのに、スタンドインするなど、振りが半端ないです」と驚いていました。前日には阿部選手のフリー打撃の打撃投手を松井氏が務めていたので、本人も9日に自分が投げることになって相当緊張しながら投げたようですよ。「緊張しました」と言っていました。
サンマリンスタジアムは広い(両翼100メートル、中堅122メートル)ので、現役選手でもなかなかスタンドインしませんよ。それを現役引退して1年経った松井氏がいとも簡単にスタンドに放り込むなんて、本当にすごいですね。4本に1本ホームランの計算ですし、やはり“格”が違いますね。
――実際に巨人キャンプを見て、松井氏に臨時コーチを依頼した原辰徳監督の意図をどう感じましたか?
言葉だけでなく、実際に体で、スイングで示した方が若い選手の成長を促すだろうと思ったからだと思います。いまの若い選手たちは松井氏のスイングを生で見ていないでしょうし、見て触れていろいろ感じてほしいというような、いろいろな意味が込められていると思いますよ。
ただ、松井氏本人はファンサービスの一環という意味合いもあるかもしれませんが。
――日本一奪回を目指す巨人にとって、例年以上に充実したキャンプを送っていると考えていいでしょうか?
そうですね。質の高い、緊張感のあるキャンプを送っていると思いますよ。選手個々のモチベーション、緊張感が普段にないものを感じました。そのことについて、阿部選手も「松井さんの存在感によって、良い緊張感・ムードで(普段と)違いますね」と話をしてくれました。
巨人が日本一を奪回するためには若い力が必要です。その意味で、松井氏が1軍、2軍を問わず、本当に精力的に見て回り、朝も早い時間から全体練習が終わった後の特打ちまでグラウンドにいることで、若い選手の個々のレベルアップを図ることができる、非常に良いキャンプになっていると思います。
総じて考えると、若い選手たちがイキイキしていましたね。巨人の後輩たちに打撃投手や視線を送りながら、力を注入している印象でした。松井氏が良い風を送っていたように思います。
<了>