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Columnコラム

中日新聞 松井秀喜 2014/04/24
エキストライニングズ(26) 特殊な球場に驚いた
 ヤンキースの今季はアストロズの本拠地ミニッツメイド・パークで開幕した。日本でも多くの方がテレビで観戦したと思う。あの球場を初めて見たときは衝撃だった。中堅後方が小山のように盛り上がり、そこにポールが一本立っている。フェンスの内側だからもちろん外野の守備範囲だ。

 野球規則には外野フェンスまでの最短距離が記されているだけで、フェンスの高さや形状、最長距離、それに外野のフィールドの凹凸や障害物についての記述はない。ダイヤモンドを越えたら競技場に関する細かい決まりはないことになる。

 ゴルフやスキーといった多様なコースを使うスポーツは全員が同じ期間に同じ場で競うのが前提。野球が特殊なのは、大きさや形の違う球場で記録した個人成績を管理して比べることだ。

 投手有利の球場、打者有利の球場はある。本塁打数や防御率などは本拠とする球場によって差が出る。皆その違いを分かった上で、記録は記録として受け入れている。選手にとって野球の本質が個人記録でなく勝敗だからだろう。

 半分はホームで戦うわけだから、球場に合ったチームづくりは有効だと思う。大リーグではジャイアンツが本塁打の出にくい本拠地に合わせた編成を重視していると聞いた。二〇一〇、一二年のワールドシリーズ制覇は、そういった戦略の成果でもあるはずだ。

 球場によりサイズは相当違う日本だが、極端な左右非対称などはない。今後、米国の影響で思い切ったつくりの球場も出てくるかもしれない。選手はすぐなじむと思う。僕も米国で最初は驚いたが、特徴のある球場でのプレーは楽しいものだ。

 他のスポーツを見ていると、ルール上あり得ないと分かっていても考えてしまうことがある。例えばサッカーで「カシマスタジアムは北サイドが狭くて守りやすい」などということがあったらどうだろう。野球人としては、ちょっと見てみたい。(元野球選手)
中日新聞 松井秀喜 2014/04/10
エキストライニングズ(25) 劇的進化遂げたレイズ
 大リーグが開幕。日本のファンの注目は田中将大投手が加わったヤンキースだろう。臨時コーチとしてキャンプに参加した僕も、戦力の上がった今季のチームに期待している。ただ同じア・リーグ東地区にはワールドシリーズ覇者のレッドソックスがいる。そして侮れないのがレイズだ。

 僕が選手だった間にレイズほど劇的に変わったチームはなかった。二〇〇七年までは十年間で地区最下位九度。だが〇八年に初のリーグ優勝を果たすなど〇八年以降は六年で四度プレーオフに進出。先発投手がそろい、後半戦に強い持ち味は今季も変わらないだろう。

 一二年のシーズン途中、僕はそのレイズに加わった。チームを率いるのはマドン監督だ。名門大の出身で多趣味。毎日張り出されるメンバー表には哲学者の名言などが書かれている。そうかと思うと移動日に「服装は全身白」などという珍指令を出したりする。試合も私生活も全てを楽しもうという姿勢が見えた。

 満塁での敬遠四球や外野手を二人にする守備で大胆さが注目された。考えついても普通は実行できない。だがマドン監督には、何事もやってみなければ分からないという気概がある。奇抜と見られることをいとわない人だ。

 ファンには新しいタイプのチームと捉えられている。確かに自由な雰囲気はあった。ただ放任されているわけではない。自由な雰囲気で手堅い野球をしているということ。マイナーにも所属したが、堅固な組織だと思った。規律があってコーチも厳しい。そのバランスが強さなのだろう。

 レイズでは先発出場二十三試合で、四番が十一試合だった。使うからには主軸という期待は感じた。全てを任せるから、松井秀喜の力を見せてくれという姿勢だった。それまで敵として僕を見て何かを感じてくれていたのかもしれない。思うような成績を残せずシーズン半ばで退団することになったが、レイズとマドン監督には感謝している。 (元野球選手)